空飛ぶ広報室

□Boys Talk ―第3R(最強タッグ撃沈?)
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「でもさあ、稲葉がそこまで可愛いって……俺にとっちゃ稲葉ってアレだし。同期のガツガツだし」
「何言ってるんですかっ!? リカぴょんは可愛いんですよっ!!」
「「出た!! リカぴょん!!」」
 片山さんと同時に声を上げた。

 生で空井くんの『リカぴょん』聞いたぞ!!
 片山さん爆笑だし。
 いや、俺も爆笑したいの我慢してるんだけど。
 空井くんは「なんですか〜」と憮然とした顔をしている。

 酒が回ってきた空井くんは稲葉が如何に可愛いかを語り出した。
 本当は誰かに話したいんじゃないだろうか?
 何せ耐えて耐えて耐え抜いた結果の結婚だし。

 暫く笑っていた片山さんだったが、一頻り笑うと口を開いた。

「てかアレだろ?空井といるから稲ぴょんも可愛くなるんだろ?でもさ、特に……アレんとき、だろ?」

 お!? 片山さん、上手く誘導してる。ナイス!!
 何か妙に『アレ』を連呼しているが全て意味が違う。特に最後の『アレ』は『アレ』だ。
 空井くんはわかっているのか?

「そんなことないですよっリカはいつでも可愛いですっ」
 空井くんも上手く乗せられてるって気付いてないっぽい。てか『アレ』が何かわかってて話しているな、これは。
 てか『アレ』な話を拒否ってた空井くんはどこ行った?ってくらいに饒舌になってないか?

「でもさ、アレんときは特に可愛いんだろ?」
「まあ……そりゃ可愛いですけど……でも普段から可愛いですよっ」
「そうだよな〜可愛いんだ〜。でもさ、やっぱもっと可愛いんだろ?」
 片山さんはニヤニヤしながら言った。
「まあ……可愛いですけど……」
「で?どんな風に可愛いの?」
 お、核心に触れたな。どうくる?

 すると酒に酔っているであろう空井くんは何だか遠い目になって語り出した。

「どんなって……伏し目がちになるんです」
「「ほ〜!!」」
「いつも真っ直ぐに僕の顔を見るのに、目を逸らすんです」
「「ほ〜!!」
「なかなか目を合わせてくれなくて、でも耳まで真っ赤になってるからそれも可愛くて」
「「へ〜!!」」
「『顔見せて』って言ったら、『恥ずかしくて無理』って毛布で顔隠しちゃうんです」
「「……」」

 どこかしら恍惚とした表情の空井くん。

 ……何か……ちょっとこっちが恥ずかしくなってきた。
 最初はすっごい興味があったし、面白いだろうなあ〜なんて思ってたけど……。
 ある意味身内みたいなヤツのそういう話って、何かリアルで恥ずかしいっ!!
 だってアレだし、ガツガツ稲葉だしっ!! 
 そりゃアイツは見た目はいいけど、男前というか、ああいう性格のヤツだからずっと友達として付き合って来れたけど……。
 そんなアイツのそういう女の部分って、実際に目の当たりにしている人物から聞くとすげえ……恥かしい……。
 そう言えば稲葉が可愛いと思うときもあったが、そんなときはほとんど空井くん絡みのときだった。
 あの稲葉をそんな風に出来る空井くんって……ある意味すげえ。

 なんて思ってふと隣を見れば、片山さんは少し顔を赤らめて呆然としながら空井くんを見ている。

 片山さんも同じ風に思ってるんだろうか。いや、稲葉のみならず空井くんがどんな人物か知っているだけにもっと複雑か?

「でもちょっとずつですけど毛布から顔見せてくれて、その目が潤んでて……たまんないんですよ」
「「……」」
「そんな目で見られたら、もう……」

 理性なんて飛んじゃいますかーっ!?

 背中を丸めて頬杖ついて、締まりの無い顔で語る空井くんはいつもの姿勢がよくてキリッとしている空井くんではなくて。

「それでね、小さくなって寝るんですよ。丸くなって子供みたいに」
「「へ〜……」」
 もう至福の時間を思い出しているのだろう。
 とろけそうな笑顔で語っている空井くんに、俺たちは何も言えなかった……。

 新婚遠距離別居婚夫婦の実体を探る!! なんて息巻いてここまで来たが……。

 何これ?ただの惚気?……いや、それはわかってる。

 いやいや、これを引き出したの俺たちだよね?
 どんだけ恥ずかしくても聞く権利……いや義務が……ある……のかな?

 本当は新婚の空井くんをからかって楽しもう、みたいなノリで来たんだけど……。

 何か……違くない?

「毛布をね、身体に巻きつけて寝るんですよ。だから僕の分が無くなっちゃうんですけど、そういうときは彼女を抱き締めて寝るからまいっかって感じで……」
「「……」」
「ほっぺたとか結構プニプニしてて、寝てるときとかつい突いちゃうんですけど〜、そしたらムニャムニャって……ホーント可愛くって〜……」
「「……」」
「それから〜……」

 一旦スイッチの入った空井くんの口から出てくるのは惚気の数々。
 それに若干酔いが回っている空井くんは止まるところを知らず。

 ふと隣の片山さんを見れば手酌で酒を煽っている。
 視線は何だか虚ろ。

 言い出しっぺが現実逃避してどーすんだよっ!?って怒鳴ってやりたい気分だったが、とりあえず我慢。

 でも空井くん、どんだけ稲葉好きなんだよ……?
 話を聞く限り、会わなかった半年間もこの二年間も浮いた話は一切無かったらしいし、稲葉じゃなかったら一生結婚していないという旨の発言もしている。

 稲葉にしてもずっと空井くんを忘れられなかったことは見ていてわかった。
 無理してんなコイツ……って何度思ったことか。
 空を見ないなんて一生無理なのに、そう発言させるほど空井くんを忘れられなかったんだよな。
 
 それでも再会してすぐに結婚するあたり、もう運命なんだろうけど。
 
 でもあの震災がなかったら、この二人はもっと早くに結婚していたのだろうか?
 ……なんて思ってみても仕方がないこと。

 どんなに離れてても、惹かれ合うものは惹かれ合うってことか。

 なーんか羨ましいなあ……。
 俺も純愛に生きてみてえなあ……。

 ……って無理か。

 てか俺、東京帰ったらまともに稲葉の顔見れねえ!!
 いや、逆に空井くんの惚気を思い出してニタついてしまうかも……。
 この稲葉がああなっちゃうなんてなあ〜……とか思っちゃうんだろうな。

 どっちにしても稲葉に殺されるな……。


 end

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