空飛ぶ広報室

□Boys Talk ―戦闘準備中 (最強タッグ誕生)
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『藤枝ちゃーん、松島行くってホント?』
 
 今は芦屋基地にいる片山さんから電話があった。
「本当ですよ。特集でね」
 そういう企画があるとメル友である片山さんにメールした。
 するとすかさず電話がかかってきた。

『じゃあさ、俺も行こっかな?』
「はい?」
 行く?どこへ?
『俺も休暇取って同じ日に行くよ。松島』
「何でですか?」
 俺が問うと、電話の向こうでフフッと笑う声が聞こえた。
 そして、その理由を話し出した。

「……いいねえ」

 これは面白いことになりそうだ。
 自分とともに電話の向こうでも不適な笑みを浮かべていることはわかった。


 まずは根回しとばかりに空幕広報室に連絡する。
 ディレクターには空幕広報室に知り合いがいるので前もって連絡しておくので、それから詰めて下さいと言った。
 ディレクターもそれなら楽だとばかりに嬉しそうに首肯し、俺が電話をかけた。
 
 一応面識のある比嘉さんを指名する。

『これは藤枝さん、ご無沙汰してます。いつもNEWSピープル拝見してますよ』
 電話に出るなり、比嘉さんは人の良さそうな声音で言った。
「ありがとうございます。比嘉さんお元気でしたか?」
『元気にしてました。稲葉さんも最近ご無沙汰しているんですがお元気になさってますか?』
「元気ですよ。新しい企画が持ち上がってて。一応チーフなんですが……珠輝って子いたの覚えてます?」
『ああ、空井一尉とデートした女性ですね』
 やっぱりそっちで覚えているか。かなり積極的だったから。
 細マッチョ好きだった珠輝が今ではちょっとぽっちゃり系のカメラマンアシスタントの大津くんと付き合ってるんだから驚きだ。
「そうです。彼女にほとんど任せているみたいで」
 仕事に対する意識も強くなった。やはり稲葉の影響だろうか。
 稲葉もそれが嬉しいらしい。『場』の作り方を試行錯誤していたし、珠輝も稲葉の作ったそれに応えたから。
 だから稲葉も珠輝に仕事を安心して任せるようになってきた。
 それに……。
「稲葉、そろそろいろいろ考えてるんじゃないですか?勘ですけど」
『いろいろって?……ああなるほど。子供、とかですか?』
「そうです!! 僕の勘ですけどね」
 この人は結構察しがいい。詳しく説明しなくてもすぐにわかってくれる。
 さすが空幕広報室を支えている人だ。

 何となくだけど、稲葉は子供のことを考え始めているように思う。
 最近ランチで顔を合わせても、『こないだね、取材で見かけた赤ちゃんがね……』とか、『図書館で騒いでる子供がいたんだけど、親が放置なのよ。私なら絶対にあんなことしない』とか、子供ネタが話に上がるようになった。
 ともみんも『リカさあ、最近子供ネタ多くない?妊娠したのかしら?』と言っていた。
 その後ともみんが探りを入れたら妊娠はしていないらしいが、子供は欲しそうな感じだったらしい。 
 
『そうですよね。子供が出来たら休職しなくてはいけないし、それまでに後進を育てておけば急にそうなっても安心だと。なるほど稲葉さんの考えそうなことですね』
「それもそちらの鷺坂さんとあなたたちの影響だと思います」
『鷺坂室長はそうでしょうけど、自分たちはそれほどでもないですよ』
「いえ、稲葉はそちらへ行くようになってから随分と変わりましたから」
 アイツは変わった。取材対象の気持ちにも添えるようにもなった。
 ガツガツは……あまり変わっていないけど……。
『そうですか?そう言って貰えるとこちらとしても嬉しい限りです』
 その声音は本当に嬉しそうに聞こえた。

「それでですね、松島で取材したいんですけど……」
 今日の本題を切り出す。
『はい。片山三佐から伺っています。藤枝さんが行くことは空井一尉には黙ってろってことですよね?』
 気のせいだろうか。比嘉さんの声音が少し……ほんの少しだけどテンションが上がったように聞こえる。
「はい。片山さんが行くことも聞いてます?」
『はい。面白いことになりそうですよね』
「こちらの方もガッツリ取材して来ます!!」
『楽しみですね〜ご報告、お待ちしてます』
 
 比嘉さんのテンションが上がったことは、気のせいではなかったようだ。

 
 松島に友人の自衛官がいるので休暇を利用して自分が前もって取材しておきたいとディレクターに頼んだ。
 その自衛官は稲葉の旦那であることは局内でも周知の事実なので、意外にもあっさりと許可が下りた。
 でも稲葉には自分が行くことは黙っていてくれと頼んだときには怪訝な顔をされたが……。

 松島の現状は稲葉の取材を通して知ってはいるが、自分も報道キャスターの端くれとして自分の目で見ておくべきだとは思っている。
 今回は個人的に前もって基地へ赴くことになるが、基地の取材であるので局を通して取材の許可を得ないといけないのでそこはディレクターに頼むしかない。
 比嘉さんには話を通してはいるので、ディレクターには形だけになってしまうが許可を得て貰い、その後は比嘉さんが何とかしてくれることになっている。

 一応阿久津さんにも話を通しておく。
 松島の空井くんにサプライズで会いに行きたいから、もし報道のディレクターから今回の特集のことで何か言ってきたら稲葉には黙っていて欲しいと。
 すると阿久津さんは俺が何かを企んでいることを察したようだ。
 不適な笑みを浮かべ、親指を立てた。
 報告はきちんとします。と言うと、「頼んだ」と短く、だけどどこか楽しそうに答えた。

 これで根回しは済んだ。

 先に空井くんに話が行くと面倒だ。
 きっと前もって『泊めて』と言うと快く引き受けてくれるだろう。根っから人のいい男だから。
 だけどそれでは意味がない。
 いきなりでないと、『証拠』を隠されてしまう。
 正直言うと、それでは面白くない、のだ!!

 新婚遠距離別居婚夫婦の実態を探る。それが俺と片山さんのミッションだ。
 というか、片山さんが単なる好奇心とスケベ心から言い出したことだけど。

 それはあの日の電話での会話―……。

『空井ん家、乗り込もう』
「空井くん家?」
『そうだ。そしてあの新婚夫婦の新居、探りに行こう』
「……なんで?」
『だって藤枝ちゃん。新婚遠距離別居婚夫婦だよ?新居に何があるか気になんない?」
「……なります……」
『あのプラトニックを絵に描いたような二人が電撃結婚!! 面白そうでしょ?』
「……いいねえ」

 そして、二人で松島の空井家に乗る込むことになった。

 
 矢本駅に迎えに来た空井くんの顔ったらなかった。
 キョトンとして口をあんぐりと開けて、

『え?藤枝さん?』
『どうも』
 そう言って笑うと空井くんは挙動不審にあたふたとした。

『え?え?え?報道のディレクターさんが来るんじゃ?』
 比嘉さんはそう説明していたのか。
『急遽僕が来ることになりました。僕がメインの特集なんで』
 と笑うと、彼も人懐っこい笑顔で『そうですか。だからリカも何も言ってなかったのかあ〜』と言った。
 
 何とも単純だなあと心中で苦笑したが、これも彼の魅力だろう。

 こりゃ稲葉も落ちるわな。

 二人で基地に着くと既に片山さんが来ていた。

『空井、今日泊めろ。もちろん藤枝ちゃんもな』
 と言うと、『え?え?え?』とまたもオーバーアクションであたふたとしていた。『困ります、困ります』と言っていたが、そんなこと、片山さんが聞くわけがない。
 丁度業務終了の時間になって、二人で空井くんを引き摺って行った。

 そして今に至る。

 稲葉から電話とメールが数回あったが無視してやった。
 どうせ余計なことを言うな、聞くなとしか言って来ないだろうし。
 そんなの俺の知ったことじゃない。

 ま、東京に帰ったら散々文句を言われるだろうことは一応覚悟しておく。

 とりあえず空井くんに酒を飲ませたが警戒していることもあってかなかなか酔わない。なのでなかなかボロを出さない。

 ちょいちょいとんでもない惚気発言はしているが、まだまだ序の口だ。
 でもまあ、空井くんがどれだけ稲葉を大事にしているかは十二分にわかったが。

 さあて。この夫婦の実体、どうやって暴いてやるかな。


 end

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