空飛ぶ広報室
□溢れ出るものV
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たくさんの人たち。
こんなにたくさんの人たちがブルーインパルスの帰りを心待ちにしていた。
この人たちをカメラに収める。
よかった。これであの人も笑ってくれる。
気持ちの整理をつけたつもりだった。
だけど、一人でブルーインパルスが描く軌跡を見上げるのがこんなにも辛いなんて。
やっぱり、あの人は私の中にずっと存在し続けるのだ。
報道記者として挫折し腐っていた私が、バラエティーのディレクターとしていいものを作ろうと思えるようになったのはあの人のお陰だった。
見てますか?こんなにたくさんの人が、ブルーインパルスの帰りを待っていたんですよ。
見ていてくれていると信じる。これで、あの人の心が少しでも晴れてくれれば。
そのとき、歓声が起こった。
バーティカルキューピッド。
初めてこのバーティカルキューピッドを直に見たあのとき、隣にいたのはあの人。
『稲葉さんと一緒に見られて、本当に、本当によかった』
あの人はそう言った。
一歩近付けば、手が触れそうな距離で空を見上げていたのに。
今は一人で見上げる。
……本当に?
本当にこれでいいの?
あの人に会わないまま、このまま帰ってしまっていいのだろうか。
人生の岐路にいたあの人。私の考えを変えてくれたあの人。
私にいろんなものを曝け出してくれたあの人。
誰よりも大切で、愛しい人―。
そう思ったとき、身体が勝手に動いた。
「稲葉ーっ、コケんなよーっ!!」
坂手さんの声が聞こえた。
わかってる。今度は転ばない。
あの人の元に辿りついてみせる。
例え拒否されても、今度はちゃんと告げる。
私の幸せを勝手に決めさせない。
私の幸せは、私が決める。
私の幸せは、あなたと共にあることなのだと―。
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