空飛ぶ広報室

□Engagement report S & K ver.
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「片山さんも……」
『ん?』
「婚活、頑張って下さいっ!!」
 電話の向こうの相手にグッと拳を握る。
『っ!? 誰に聞いたんだっ!? 比嘉かっ!? 稲ぴょんかっ!?』
「稲葉さんですけど。写真、いいの撮れました?楽しみですよね〜どれだけ応募来るんでしょうね」
『そこまで知ってんのっ!? そーだよな、稲ぴょん言うわな……つか、もしかして上から目線っ!? 自分は結婚決まったからって!? 空井のくせにーっ!!』
「なんですかっ!? 空井のくせにってっ!?」

 実のところ触れて欲しくなかった。空井の結婚が決まった今、あのときのメンバーで結婚どころか彼女もいないのは自分だけだ。イケメンのこの俺がっ!? 
 それなのにこの幸せ全開のこの男に言われたっ!!何か虚しいっ!! しかもその妻になる女はデリカシーのない女どものうちの一人。もう一人の妊娠中の女も性質が悪いが。
 ラブラブな時間のことはもう言わずにおいてやろうと思ったが言ってやる。

『稲ぴょんとイイコトしたからって調子に乗りやがってーっ!! 大祐のダイスケベーッ!!』
 片山は子供のように叫んだ。
「なっ、なんですかそれっ!?」
 空井はまたも真っ赤になって叫ぶ。
『どうせ、自分のものになった途端にさかりのついた犬みたいになったんだろ?やだね〜こういうストイックなヤツは一旦箍が外れると爆発してがっつくんだっ!!』
「な、なに言ってるんですかっ!?」

 さかりのついた犬?……まさかそんなこと……いや、今まで会いたかったのをずっと我慢してた分……爆発した……かも?
 余裕がなかったから正直よく覚えていない。
 ひょっとしたらがっついていたかも……。
 空井自身も紳士的だったかどうか少し自信がない。

『それとも何か?今までそういう相手がいたのから爆発なんてしないってか?それともそういう店か?稲ぴょんに言いつけるぞ』

 何を言うのだ、この人はっ!? そんなことなど断じて無い。神様にだって仏様にだって、ご先祖様にだってリカの父親にだって誓って無いと言える。

「そんなことあるわけないじゃないですかっ!! 僕はねっ、稲葉さんじゃなきゃ一生誰ともそんなことになんかなってませんっ!!」
『お前は出家した坊さんかっ!?』
「何て言われようとね、僕がそんなことになるのは一生稲葉さんだけなんですっ!! 稲葉さんじゃなきゃ結婚だって考えなかったですよっ」

 そうだ。リカしかいない。リカ以外考えられなかった。
 例えリカが自分のものにならなかったとしても、リカが幸せならばそれでいいと思えるほど、空井にはリカのことが大事で、自分を犠牲にしてもいいとさえ思えるほど、リカを愛しく思っている。

『はいっ!! 頂きました〜』
「はい?」
 何が?何を頂いたと言うのだろうか?

『今までの会話、全部録音済みだからな』
「録音っ!?」
『結婚祝いに稲ぴょんに聞かせる』
 電話の向こうが今まで以上に厭らしく笑っているのがわかる。
「なっ!? や、やめてくださいっ!!」
 お願いします!! と電話の向こうの片山に頭を下げる。
『泣いて喜ぶぞ〜稲ぴょん』
 喜ぶ?稲葉さんが?泣いて?
「……そ……そう……ですか?」
 片山の言葉に空井は稲葉さんが喜ぶならいいのかな?とか思えてきた。
『あっまりまえじゃないか。これほどの告白ないぞ。『一生君だけ』。これ以上の殺し文句はない!!』
 鼻息荒く力説する片山。それが逆に空井の不信感を煽った。
「……やっぱり……信用できません……」
『なんでだよっ!?』
「片山さんの説が正しければ今頃片山さんは引く手数多……とは言いませんけど、ちゃんと相手もいて婚活なんてしてないはずですから」
 正論だ。空井は自画自賛したくなった。
 片山さんはイケメンだ。だけどいつも恋愛に失敗するのはその性格と動向に問題がある、と思う。
 全くもって残念なイケメンだ。
『何言ってんだっ!? これは正しいっ!! 絶対に喜ぶ!!』
「じゃあ何で片山さんは今まで上手くいってないんですか?」
『それはだな……そこまで至ってないんだよっ!!』
「それなら納得出来ます」
『そ〜ら〜い〜お前〜……』
 片山は低音で唸る。そして叫ぶように言った。
『空幕にいる頃から『稲ぴょんラブ』オーラが駄々漏れだったくせにっ!!』
「ええっ!? 駄々漏れっ!?」
 確かにいろいろ言われた。リカと藤枝が付き合っていると思い込んでいた頃、『奪え』と言われたこともあるが……。
 駄々漏れていたからだったのか?

『お前自覚なかったとか言わせねえぞ。稲ぴょん来ただけで尻尾振ってる犬みたいになってたくせにっ!!』
「犬ってっ!? なんですかそれっ!?」
 また犬っ!?
『お前からほとばしる『稲ぴょんラブ』オーラ。なのに終電で帰しちゃうしさ。傍で見てるともどかしくて悶絶しそうだったわ』
「悶絶……」
『なんつーかもう、こっちがもだもだしたわ』
「もだもだ……」
『お前ら、少女マンガの主人公かっ!?』
「少女マンガって……」
 ああ、もう言われたい放題だ……。

 少女マンガがどれほどのものかよく知らないが、少女マンガと言えば恋愛ものが多いらしい。そしてこれでもかってくらい擦れ違ったり邪魔が入ったり紆余曲折を経て主人公とその相手は結ばれて大体がハッピーエンドらしいが。
 自分たちも傍から見ればそうだったのだろうか?確かにそんなところも無くもない。
 空井はそう思うと何か急に恥ずかしくなった。

『俺らがあれだけ発破かけてやったのにさ、お前全然活かせてなかったじゃねえか?』
「そ、そんなこと……なかったですよ?」
 一応頑張ったこともある。まああれは気持ちが溢れてどうしようもなくなったのだか。

『なにぃ!? お前、やっぱり北の大地で何かあったんだな!? 吐けっ、吐くんだっ』
 
 空井がリカと二人で北海道へ行った後、空井は妙にご機嫌だった。
 PVの反響とは別に何かあるな……とは思ってはいたが……。
 鷺坂元室長の『ときめき?空井?』の後の空井のオーバーリアクション。
 あれで北海道でリカと何かあったと片山は確信した。
 しかしあの後の騒動でそれどころではなくなったが……。

「嫌ですよーっ!! これは僕と稲葉さんの秘密ですっ!!」
『空井っ、そう言ってる時点で何かあったって言ってるようなもんだって気が付いてる?』
「あ……」
『ホントおバカさんだねえ、空井くんは』
「バカで結構ですよっ!! それより録音、消して下さいねっ」
『やだねっ』

などと言う男同士の会話が続き、春の夜は更けていった。


 end
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