空飛ぶ広報室

□Engagement report S & K ver.
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「片山さん、ご無沙汰してます。空井です」

 空井は自室で今は芦屋基地にいる片山に電話をかけた。
 空井自身、業務上以外では空幕にいた頃のメンバーに連絡を取ることは控えていたので、いつ以来だか覚えていない。

『おー!! 空井!! 久しぶりだな〜元気だったか?』
 相変わらずのようだ。声の調子でわかった。
「はい元気でした。片山さんもお元気のようで。それで今日はご報告が……って知ってますよね?」
『何のこと?』
「……知ってるくせに」

 知っているはずだ。空井の上官の山本の元にも鷺坂から連絡が行っていた。
 この電話の前にしたリカとの電話の際に知らされたことだが、リカの上司の阿久津の元にも鷺坂から既成事実のメールが送られていたのだ。だから片山が知らないはずがない。

『え〜?空井が稲ぴょんと結婚することなんて知らないけど〜?』
「知ってるじゃないですか……」
 片山が厭らしい笑みを浮かべていることは想像に難くない。空井は小さく嘆息する。
『まあまあ。よかったじゃないか。どんだけ遠回りしてんだよお前ら』
「……すみません」 
 それは認める。何年かかったんだよ……。
 空井は小さく嘆息し、己の度胸の無さを呪った。
 これでも元戦闘機パイロットか?

『で?』
「はい?」
 唐突な片山の問いかけに空井は思わず間抜けな声音を出した。
『二人で飲みに行っても終電で帰しちゃう空井くんもついに狼になっちゃったのかな?』
 オオカミッ!? 
「なっ、なに言ってんですかっ!? てか終電のこと何で知ってるんですかっ!?」
 空井は真っ赤な顔で叫んだ。
『バレバレだっつーの。今までツッコまなかっただけでも感謝して欲しいとこだけどな。ま、もう恋人通り越して婚約者なわけだからな?そりゃあねえ〜?』
 片山は自らの手柄のように言っているが、実は鷺坂から聞いたことは黙っておく。
 鷺坂も『空井のヤツ何やってんだよ〜稲ぴょんも稲ぴょんだよ〜』とぼやいていたのだが。
 片山がニヤニヤと先程以上に厭らしい笑みを浮かべているのだろうことは空井にもわかった。
「や、やめてくださいっ!!」
 やめて欲しい。正直そういう話はあまりしたくない。そりゃ男だ。嫌いではない。嫌いではないが自分のことを話すのは苦手だ。
 それにこんなことを話すと、リカが激怒する。
 というか、二人で初めて飲みに行ったとき、終電で帰してしまったことまでバレているなんて……。
 あのときはまだそのときではないと思っていたのだが……やはり男として良くなかったのだろうか。いや本当に好きだったからこそ大事にしたかったし……。
 空井は頭を抱えた。

『ハハハッ、まあ婚約者だもんな〜聞くのも野暮ってもんか』
「……」
 もう話すまい。絶対に言わない。
 そんな電話の向こうの空井の様子が手に取るようにわかる片山は苦笑し、もうやめておいてやることにした。
『俺だってさ、室長からメール貰ってすぐに電話してやろうって思ったんだけどさ、室長から暫くそっとしといてやれって言われてたし、長い間離れてたお前たちのラッブラブな時間を邪魔するのも何だしなあって思ってさ。だからお前たちが言ってくるの待ってたんだぞ』
「……それはどうも……」

 ラブラブな時間……。
 松島でリカと過ごした時間を思い出し、思わず顔がニヤけてしまいそうになるのを抑える。
 誰にも見られていないが、片山のことだ。何かしら感じ取ってツッコんできそうだ。
 
 それにしても片山が何も言ってこないのはおかしいとは思っていたが……一応気を遣われていたらしい。
 空井はリカとラブラブな時間を過ごせたので、気を遣ってくれたことに対し胸中で感謝した。

『まあ、繊細な空井くんのことは稲ぴょんに任せておけば安心だな』
「……繊細て……」

 片山も心配していた。一番傷つきやすいこの末っ子のような男が、まさか松島で被災するとは。
 ただでさえP免された。稲葉のお陰で前向きに生きるようになったのにあの震災。挙句、自分が抱え込んだいろいろなものを大事なリカにも抱えさせたくないと連絡を絶つことを選ぶような男なのだ。
 繊細であり、優しすぎるのだ。

『違うか?』
「違……わない……ですけど……」
 一応自覚はあるらしい。
『だろ?稲ぴょん男前だからな〜『私が空井さんのことを守ります!!』とか言ってそうだよな』
 今この男にはあのガツガツ女子の恋人……を通り越した婚約者がいるのだ。
 何となく、彼女が言いそうなことを口に出してみたのだが。

「……」
 電話の向こうが沈黙している。片山は怪訝に思った。
『あれ?もしかして……』
「……」
『言われちゃったりした?』
「…………言われました……」
『おー!! オットコマエだなー稲ぴょん!!』
「……」
 さすがガツガツの稲葉リカ。片山は爆笑する。
 すると空井は「もううるさいですよ片山さん」と困ったような、拗ねたような声音で言った。
『だってさ、カッコよすぎだろ。自衛官に『守ります』とか言っちゃう?仮にも元戦闘機パイロットにそれ言っちゃう?』
「もうっ、いいじゃないですかあ!! その稲葉さんは僕が守るからいいんですっ!!」
 真っ赤になって叫んでいるのは電話であってもわかる。それよりも今言った言葉の方が重大だった。
『お!! 言ったな!! お前、ついに言ったな!?』
「ええ言いましたよ?稲葉さんは僕のものですからね。僕が守らずに誰が守るんですかっ!?」
『……お前さあ〜、よくもそんなこと、恥ずかしげもなく言えるなあ……』
「そうですか?事実なんで」
 事も無げに言う。
 
 おいおい、何だ?この余裕は。コイツってこんなキャラだったか?
 片山は当時見ていて歯痒くなる程だったこの男と婚約者の様子を思い出す。

『ならもっと早くにそれ言えよ〜時間かかり過ぎなんだよ。俺ら、どんだけ心配したと思ってんの?』
「あ……はい。ご心配おかけしました」
 何となく頭を掻きながら猫背になってるだろうな、と片山は思って苦笑した。
『わかったんならいいよ。それより空井』
 ぶっきらぼうではあるが、優しい声音で片山は言った。
『幸せになれよ。お前は幸せにならなきゃいけない。もちろん稲ぴょんもだ』
「……はいっ!!」
『おめでとう』
「ありがとうございます!!」

 この人たちには救われてきた。たまに余計なお世話だなと思ったこともあった。だけど、この人たちとリカがいたから、広報官として新たな夢を描くことが出来た。


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