空飛ぶ広報室

□キスの理由
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「空井さん、聞きたいことがあるんですけど」
「なんですか?」

 二年間の別離を乗り越え、無事婚約した空井とリカは、松島の空井の部屋で甘いひとときを過ごしていた。
 するとリカが不意に思い出したように口を開いた。

「北海道の……」
「北海道……?……あ……」
 
 北海道。それは空井にとって、まるで青春時代に経験したような甘酸っぱい思い出。

「……はい……あのことなんですけど……」

 やっぱりあのときのことか。
 ちょっと照れるな。あ、稲葉さんも顔真っ赤。照れてるんだ。
 照れてる稲葉さんも可愛いなあ〜。

 なんてことを思ったり。

「空井さん?」
 少し物思いに耽っている空井をリカは怪訝そうに見る。
「あ、はいっ、何でしょう!?」
 リカの声で現実に引き戻され、少し上擦った声を上げた。

「……なんで……」
 リカは視線を逸らし、真っ赤な顔で言い辛そうにしている。

「なんであのとき……キス……したんですか?」
「あ……」

 やはりあの瞬間を思い出すと顔が熱くなる。
 二秒という短い時間だったけど、確かにリカの唇を直に感じた。
 それは柔らかくて、甘くて……。

 あのとき、彼に火を点けたのは何だったんだろう?
 突然のキスにリカは困惑と同時に嬉しい気持ちもあって。
 たった二秒でも、かなりパンチのあるキスだった。
 ロックオンされて完全に撃ち抜かれた。

「あ……あれはですね……」
「はい……」
「稲葉さんの話を聞いて……こう、溢れてきちゃって……」
「何がです?」
「この人にキスしたいって気持ちが」
「……だから……なんで?」

 そこでキスなんだ?何であのスピーチでキスに至るのかを教えて欲しいのだが。


『どんなに失敗しても、なりたいものになれなくても、人生はそこで終わりじゃない。どこからでもまた、始めることが出来る』


「稲葉さんの言った言葉が、胸にきちゃって……」
「胸にきちゃったらキスなんですか?」
「あのときは。もうどうしようもなくなって」

 少年のようにはにかむ空井にリカの胸は高鳴る。

 ちょっと!! いい大人の男がその仕草っ!? しかも似合うんだけどっ!!

「ああ、この人のこと、本当に好きだなって思ったら……つい?」

 うわあ、さり気に告白されちゃった?
 いや、プロポーズされたんだから今更か……。
 てか『つい』でキスしちゃうって!? なんなの、この人!?

 そんなことを考えながらリカは空井の顔を上目遣いに見る。
 しかし解せないことが……。


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