空飛ぶ広報室

□彼女が彼を変えた
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「……何あれ?」
「あ、島崎三佐」
 たまたま通りがかった島崎は渉外室の中を覗き込み、その場にいた広報班の広報官に言った。

「空井一尉の結婚が決まったとかで」
「そうか!! アイツやっと動けたかっ!!」

 あのとき、彼女を幸せに出来ないと、どこか諦めていた空井だったが……。
 その空井が自分の手で彼女を幸せにすると決めたのか。

「でも惚気が始まりまして……」
 うんざりとした様子で広報官は言う。

「空井一尉って……あんなキャラだったんですか?この間までちょっとこう……陰があるっていうか……ちょっと他人と関わらないようにしてるのかな?って感じだったんですけど……」
 その言葉に島崎が苦笑した。

「いや、確かに震災からこっちちょっと落ち込んでたけど……元々あそこまでぶっ飛んでるってイメージはなかったぞ……」
「確か空幕にいた頃のお知り合いですよね?その稲葉さんって方」
「確かにそうだったと……空井が真っ先に無事を知らせたのは彼女らしいけど」
「よっぽど大事な人なんですねえ……」
「あの様子じゃなあ……でも、惚気すぎだろ、あれは……」

 まだも続く空井の惚気をうんざりとしながらも、島崎はどこか安心した面持ちで見つめる。

 彼女がやって来たあの日まで、空井はどこか思いつめたような、手に入れたくて仕方がないものを諦めようとしている男の顔をしていた。

 それが今、完全に180度違った顔付きだ。
 蕩けきっている。という感じだろうか。

「ま、今だけ聞いてやろうぜ。アイツも今まで苦しんできたんだしな」
「……島崎三佐はずっとここにいないんだから……他人事ですよ……」
「まあな」

 ハハハと笑いながらその場を立ち去る。

 やっと、心から笑えるようになったか。

 島崎は心底安心し、廊下をどこか楽しげに歩いて行った。


 しかし、空井の惚気が事あるごとに披露されることになるとは、ここにいる者は誰一人、予想だにしなかった。


 その頃、東京。

 ブルッ!!

「何だ?稲葉。風邪か?」
 急に震えるような仕草をしたリカを阿久津は気遣うように言った。

「いえ……何か北の方から悪寒が……」
 リカは北の方を見る。

「旦那か?」
「旦那じゃないですっ、まだっ!!」
「まだだってさ!!」
「もうやめてよ藤枝っ!!」

 その頃東京では同僚たちに冷やかされ、真っ赤な顔のリカの姿が見られた。


 この悪寒がその後度々襲ってくることになろうとは、リカは思いもしなかった。


 end
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