空飛ぶ広報室
□彼女が彼を変えた
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「おう稲葉〜、帰ったかあ」
「すみません。休暇頂いちゃって」
リカは松島から帰ってきてすぐに出社すると阿久津から声をかけられた。
「ああ、いい。それより稲葉」
「はい」
「今度はいつ休暇取るんだ?」
ほんの少しだけ声を上擦らせて阿久津はリカに言った。
「いえ、昨日まで頂いたんで暫くは……」
「何言ってんだ?親御さんに挨拶とかしに行かないといけないだろ?」
阿久津の言っている意味がわからず、リカは首を傾げた。
「はい?」
「こういうことは大事だそ〜。しっかり挨拶して来いよ。都合は融通してやるから」
「はい?」
「俺もなあ〜女房の親に挨拶に行くときはそりゃあもう緊張したぞ。まあ彼なら広報官だし、その辺は上手くやるだろうが」
「はい?」
「お前もいつもみたいにガツガツいくんじゃないぞ。最初はおしとやかにだなあ」
「はい?」
阿久津のアドバイスを要領を得ないといった風に聞いているリカに、阿久津は業を煮やしたように言った。
「お前、結婚するんだろ?」
「はあっ!? 何でっ!?」
「全部鷺坂さんから聞いた。つーかメール貰ったぞ。ほら」
そう言って自分のパソコンをリカに見せた。
「……なにこれっ!?」
そこには『サギちゃんより』と書かれたメール。
そして『私達、結婚します!』の文字と、添付された画像。
それはリカと空井が抱き合っている画像だった。
「どう見てもお前だろ?『私達、結婚します』って」
いやいや、そうだけど……確かに覚えはあるけれど……。
「な、な、な、な、なんでっ……!?」
完全のテンパっているリカの元に、今まで駆け寄りたいのを我慢していた同僚たちが集まってきた。
「リカさんおめでとうございますっ!!」
「もうヤキモキしたぞ」
「先越されちゃったわね」
珠輝に藤枝、何故かともみまでいる。
「えええええっ!?」
リカは真っ赤になっている。
やられたっ!!
恐るべし詐欺師鷺坂っ!!
「結婚しないのか?」
「いえっ、しますっ、しますけどもっ」
阿久津の言葉にリカは全力で結婚を肯定した。
あの次の日、猪苗代湖で改めてプロポーズされ承諾したのだ。
空井とは恋人期間をすっ飛ばして婚約者になった。
「するならいいじゃないか」
と阿久津が言えば、
「結局するんじゃん」
とともみが言った。
「空井くんに逃げられんじゃねーぞ」
「うるさい藤枝っ!!」
ニタニタといやらしい笑顔でそう言う藤枝をリカは怒鳴りつけた。
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