空飛ぶ広報室

□思い出のこの場所で
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 そのとき、優しい風が吹いた。

 ふわっと微かに、幼い頃に感じた感触。

 その風が、父に頭を撫でられたような、そんな感触に思えた。

「お、とうさん?」
「え?」
「今、父の手の感触が……頭を撫でられたときの父の手の感触がしました……」

 呆然と空を見るリカの手を空井は優しく握った。

「お父さん、来てくれたんですね……」

 空井が優しく囁くと、リカは目に涙をいっぱいに溜めて湖を見つめている。

「……お父さん、会いに来てくれたんだ……私と、空井さんに……」
 
 空井はそう言うリカの手を握る力を強めた。

「……僕、お父さんに認めて貰えたんでしょうか?有事の際に傍にいられない自衛官なのに……お父さん心配しちゃいますよね……」

 少し自信の無さそうな顔。
 父はもう亡くなっているのだから、空井が父の許しを請う必要はないのに。
 亡くなった父のことまで気にしてくれるこの人はなんて優しいのだろう。

「大丈夫です。父だって記者の端くれですから。私は母そっくりだから、父もわかってくれてます」
 
 リカは空井に向き直ると、涙を浮かべたまま笑顔で空井の顔を見て言った。

「空は繋がってます。例え傍にいられなくても、気持ちさえ繋がっていればいいんです。きっとうちの両親もそうだったと思うから……」

 取材でいつも家にいなかった父。それでも家を支え続けた母。
 父が安心して家を空けられたのも、母子家庭でもさほど苦労しなかったのも、そんな母の強さだ。

 私もそうなりたい。この人を、気持ちの部分で支えられる人間になりたい。

「空井さん。一生大事にします。私が空井さんを守ります!!」

 握り拳を作って宣言するように言うリカに空井は苦笑した。

「頼もしいけど、そういうセリフは僕に言わせて貰えます?」
「じゃあ言って下さい」
 
 空井はリカの正面に立つと、リカの肩を掴んだ。

「稲葉リカさんっ!! 僕が一生あなたを守ります。あなたのお父さんに誓って!!」
「はい!!」

 そして、あのときと、気持ちが繋がったときと同じように、二人は固く抱き合った。


 お父さん……私、この人と一生幸せになります―。


 end
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