空飛ぶ広報室
□思い出のこの場所で
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「……僕……ちゃんと最後まで言ってなかったなって思って……」
「はい?」
急に現実に引き戻されるような空井の声に、リカは空井を見る。
「その……ですね……」
「何ですか?」
しどろもどろになって言いよどむ空井をリカは怪訝に思う。
「あのっ!!」
「!?」
空井は意を決したように、隣に立つリカに勢いよく向き直った。
「稲葉リカさんっ!!」
「はいっ!?」
リカは急に大声で空井にフルネームで呼ばれ、驚きで声が裏返った。
「あのときっ、最後まで言えなかったこと、ここで言わせて下さいっ!!」
真っ赤な顔で、叫ぶように空井はその言葉を言った。
「稲葉リカさんっ、じぶっ、僕と結婚して下さいっ!!」
「!?」
結婚?
リカは目を瞠り、空井の顔を凝視した。
空井は口を真一文字に閉じ、真っ赤な顔でリカを見つめている。
「……」
リカは驚きのあまり言葉が出なかった。
いや確かに、あのときもそのようなことを言われた。
『稲葉さんのこと、幸せに出来るかどうかわからないけど』
彼は確かにそう言った。
それに対してリカは『私の幸せは私が決めます』と答えた。
これってプロポーズだったのかな?なんて思わなくもなかったけど、ただそのときは気持ちが再び繋がったことが嬉しくて、それだけで幸せで。
でも一生、この人のエレメントでいられるんだと漠然と思った。
「……嫌ですか?」
呆然とするリカに空井は不安そうに問いかけていた。
空井の言葉にリカはハッとなり、
「い、嫌なわけないじゃないですかっ!!」
と叫んだ。
「稲葉さん……」
「嬉しいんですっ!! どうしようもなく嬉しいんですっ!!」
涙を浮かべ、半ば怒鳴るように言うリカがどうしようもなく可愛いと空井は思う。
「やっぱりプロポーズするなら、ここだと思ってたんです」
空井は湖を見つめる。
「稲葉さんのお父さんとの思い出のこの場所でプロポーズしたかったんです」
そしてリカの方に向き直り、照れた表情で言った。
「……空井さん」
リカは視線を湖に移した。
父との思い出の場所。
よく覚えていない自分にそこが猪苗代湖だと教えてくれたのは誰でもない、この空井だった。
この人は何でこんなにも自分のことを理解してくれるんだろう。
この人は何でこんなにも自分の心を掴んで離さないんだろう。
この人を父に会わせたかった。
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