空飛ぶ広報室
□思い出のこの場所で
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「ここ……」
「稲葉さんのお父さんの湖です」
綺麗な山に大きな湖。そのまわりにはまだ時期が少し早いのか水が張っていない田んぼ。
それなのに水面に日の光が反射してキラキラと光っているように見えた。
それはあのとき、父と一緒に見た湖そのものだった。
猪苗代湖。
あのとき父と一緒に立った場所に、今、空井と二人で立っている。
「……あのときと一緒だ……」
「どうしても稲葉さんと一緒に来たくて」
「……嬉しいです」
父との唯一の思い出の場所。
リカはあの日に思いを馳せるように湖を見つめている。
そんなリカを空井は愛しそうに見つめ、そして視線をリカと同じ方向に向けた。
二年振りに再会し、空井とリカはお互いに気持ちを確認し合った。
その後、阿久津から何故か急にそのまま休暇を取るように言い渡され、空井もその知らせをリカから聞いた途端満面の笑みを浮かべて喜んだ。
『明日、僕も休みなんでっ!! 稲葉さん、是非連れて行きたいところがあります!!』
その喜びように、まるで尻尾を全開に振っている犬のようだな、とリカは苦笑したが、一緒にいられて嬉しいのは同じ。
ホテルに延泊の電話をしようとすると、
『ホテルに泊まることなんてないです。僕の家に来て下さい』
と何でもない風に言われた。
途端、顔中熱を発したように熱くて、真っ赤になって目を瞠り、口をパクパクとさせているリカの様子に、空井は自分の爆弾発言に気が付いてあたふたとした。
『い、いや、そうじゃなくてですね、ホテル代、勿体無いじゃないですかっ!? だからですねっ』
ああ、もう。この人はいつも順番が変だ。
『……それに……いっぱい話がしたいと言うか……二年分……』
空井は真っ赤な顔でそう言った。
上目遣いで、大の大人の男が子供のように。
そんなところも実は愛しく思ってるなんて言えやしないけど。
『ありがとうございます。お言葉に甘えさせて貰います』
もう負けたとばかりに、リカは微笑みながらそう言うと、空井は先程以上に嬉しそうな笑みを浮かべた。
その後、その展開は早いだろう、とは思われるようなことは、離れていた時間が永く、お互いその想いを募らせていた分、意外にも箍が外れるのは早かった。
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