踊る大捜査線

□非日常的日常
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「どうしたっ!?」
 さっきの刑事さんが慌てて走り寄ってきた。さっきの課長と呼ばれた人も俺の声に気が付いて慌てた様子で寄って来た。

「う、産まれるって……」
「すみれさんっ!? 大丈夫っ!?」
 刑事さんはすみれさんの身体を支えた。

 おたおたしている俺の肩を課長って呼ばれた人は掴んで「大丈夫だから。お産は病気じゃないからね」と笑いかけてきた。
 その顔を見ると何だか落ち着いた。

「もう、だから言ったじゃない!? 早くっ、病院行くよっ!!」
「ダメッ青島くんは仕事してっ!!」
「だってっ!!」
「だってじゃないっ、あたしは大丈夫だからっ」
「仕事どころじゃないでしょっ!?」
「大丈夫だって言ってるでしょっ!?」
 何だか言い合いが始まった。
 すみれさんは痛みに顔をしかめながらも怒鳴ってる。何か凄い人だ……。

「二人とも。ちょっとは落ち着こうね」
 課長って人は困ったように言った。

「すみれさんっ、大丈夫ですかっ!?」
 すると騒ぎに気が付いたもう一人女の人が走ってきた。多分刑事さんかも。制服じゃなくてスーツ着てるし。
「ちょっと産気づいちゃったみたい」
 青島さんはその女の人に言った。
「ホントにっ!? 係長っ、すみれさんと病院にっ」
「ダメだって、大丈夫だからっ」
 すみれさんはそれを制した。
「でもっ!!」
「この子にお父さんはあなたが生まれるときでも職務を全うした立派な刑事だって言いたいのよっ!!」
「すみれ……」

 やっぱり!! この青島って刑事さん、この人の旦那さんなんだ!!

「いや、この場合、仕事ほっぽり出しても出産に立ち会いましたって言わないとグレるんじゃ……」
 どこからともなく現れた、ちょっと本当に刑事?って感じの頼りなさげで小さめな若い男の人。

「この子は大丈夫よ。青島くんの子だもん。信念貫く人の子だもん……」
「……すみれさん……わかりました。交通課か警務課で手の空いてる子探します!!」
「ありがとう夏美さん」
 すみれさんは苦しそうにしながらもニッコリと笑ってお礼を言った。その顔がまた痛々しい。
「あ、交通課と警務課の課長にちゃんと許可とってよ〜」
 夏美と呼ばれた女の刑事さんは勢いよく立ち上がるとどこかへ走って行った。その後ろ姿に、課長と呼ばれた人が声をかけた。

「すみれ……本当に大丈夫?」
「大丈夫よ。多分まだだから。それより俊ちゃん、あとよろしくね」
「任せといて」
 青島さんはドンッと胸を叩いた。
 青島さん、俊ちゃんって呼ばれてるんだ。

「すみれさんっ、交通課と警務課に声かけたら……」
 10人近くの婦警さんが夏美さんの後を追ってこの部屋に飛び込んできた。 
「すみれさんっ、私が付いて行きますっ!!」
「いいえっ私がっ!!」
「私だってばっ!!」
「私よっ!!」
 婦警さんたちはヤイヤイと言い合いを始めた。
 ちょっと取っ組み合いになりそうで怖い……。

「……みんなついてくって……すみれさん、女子にも人気あるから……」
 夏美さんは苦笑して言った。
「ひょっとして……俺より人気ある?」
 青島さんの呟きに大勢の婦警さんは一斉に声を荒げた。
「当たり前じゃないですかっ!?」
「青島さんなんかよりすみれさんの方がずっとずっと人気ありますよっ!!」
「……俺なんかより……」
「青島さん……残念」
 どこからともなく現れたバナナを手にした刑事さんらしき人が青島さんにそう言うと、青島さんはガックリと肩を落とした。
「たはは……そんなこと言ってる場合じゃないって!!」
「……落ち着いて下さいってば……」
 さっきのちょっと小さめの刑事さんがそう言うと、痛みが治まったらしいすみれさんはよっこいしょと言って立ち上がった。
「とにかく行ってくるね」
「うん。俺も済んだらすぐ行くから」
「うん。じゃあね」

 結局ジャンケンで勝った二人の婦警さんがすみれさんについて行くようだった。



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