踊る大捜査線
□Imitation coupleU 〜来訪者〜
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「青島さんっ!!」
「げ……」
とある商店街に新しく出来た唐揚げ屋。
そこに現れたのは妙にテンションの高い男とニコニコと嬉しそうに笑っている女。
その男を見るなりここの店主夫妻は揃ってうんざりとした顔を見せた。
「これっ、開店祝いですっ!!」
男はそう言って花束を渡した。
「ああ、どうも……」
顔を引きつらせながら店主は受け取った花束を妻に渡す。
お昼のかき入れ時を過ぎた比較的客の少ない時間。
今もここの店主が店先のベンチで常連客と雑談を交わしていたときに彼らはやってきた。
「青島さんっ、どうですか?新婚生活は」
ニコニコと問いかけてくる男に店主は返す。
「ああ……まあ、うん、楽しいよ」
「それはよかった!!」
うんうん、と満面の笑みで頷く男の傍の女が口を開く。
「あなた、他のお客さんがびっくりしてらっしゃるから。ごめんなさい、すみれさん」
女が頭を下げるとすみれと呼ばれた店主の妻が頭を振った。
「ううん雪乃さんは謝らないでっ!! 悪いのは真下くんだから」
「え?」とそのテンションの高い男、真下。
「そうですよね。でもいつまで経ってもこの人を矯正できないのは私の力不足ですから」
さも当たり前というようにぼやくその男の妻、雪乃。
「ええ?」とまた真下。
「雪乃さんは頑張ってるわよ。そもそもこんな馬鹿を引き取ってくれた雪乃さんには感謝よ」
「えええ?」とまたまた真下。
「そう言って貰えると嬉しいです〜それよりもすみれさん。青島さんみたいな15年も女性を待たせるような不甲斐ない男でよかったんですか?すみれさんにはもっといい人がいたんじゃないですか?」
「え?」と今度はこの店の店主、青島。
「まあそうなんだけどねえ。ほらこの人ってあたしがいないと何にもできないでしょ?まあ仕方がなくよ」
「ええ?」とまた青島。
「そうですよね〜!! 青島さんってすみれさんがいないとすぐに暴走しちゃうし。よくあんな青島さんの世話が出来ますね?」
「でしょ?この店始めてからもすぐに油売っちゃうし。こんなんでよくまともに商売できるわねってくらい大変なのよ。でもあたししかこの人の面倒見れないでしょ?それに慣れちゃったし」
「えええ?」とまたまた青島。
「尊敬します、すみれさんっ」
雪乃は目をキラキラさせている。
「あたしは雪乃さんの方が尊敬できるわ」
「「ええええ?」」と青島と真下が二人同時に声を上げる。
かなりの毒を吐きながらもニコニコと二人で笑い合う。
しかもこの二人、決して嫌味を言い合っているのではない。
普段から愚痴の言い合いをしているこの二人。会う度に言っていることをそのまま言っているにすぎない。
まあ男たちはそれを初めて聞かされることになったわけで。
「……」
「……」
ニコニコと各自の亭主の悪口を言い合う妻たちに、亭主たちは絶句する。
(そんな風に思ってたの!? 雪乃っ!!)
(……マジで耳が痛いんだけど……すみれさん……)
亭主たちは妻たちの不満に軽く、いや、多大なショックを受けていた。
二人して顔を見合す。
「お前、結構尻に敷かれてたりすんの?」
「青島さんこそ……既に敷かれてるみたいですね。まあ、以前からそんな匂いしてたけど……」
男たちは小声で言い合った。
そして楽しそうに女同士の話に花を咲かせる妻たちに視線を向ける。
二人は揃ってハア〜……と大きく嘆息した。
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