踊る大捜査線

□Imitation couple 〜始まり〜
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「えっとなになに?『青島俊作=唐揚げ専門店店主。恩田すみれ=青島の妻。元は同じ会社に勤務していた新婚夫婦。すみれは高卒入社、青島は大卒入社であり、すみれの方が先輩。15年間ずっと同僚としてやってきたが、この度青島の一世一代のプロポーズにより結婚、結婚を機に脱サラ、唐揚げ専門店開業。二人共下町育ちでべらんめえ口調で話す。亭主関白というより女房の尻にしかれている節あり。実はお互いベタ惚れであるが、夫の方が軽い性格で女好き。しかし同僚たちはすみれとの仲を疑っているので全くと言っていい程モテないが、たまにその無駄な優しさに勘違いする女性がいる。その都度何か理由をつけては断っていた(仕事を理由にすることが多い)。一方すみれも会社のマドンナ的存在で、陰ですみれに憧れる男性社員が多数いることを知っている青島は気が気じゃなく、無意識に予防線を張っていた。交際期間はほぼ皆無だが、誰が見ても『恋人だろう?』と思えるくらいの接し方であった。しかし本人たちからすれば15年間同僚以上恋人未満の関係を続けているつもりだったが、世間一般のその関係性から見れば交際期間15年と言っても過言ではない』……?」

「……なんなの?この設定は……」
 思いっきり顔をしかめたすみれは真下に訊ねるが、真下はただニコニコしている。
「リアリティーを追求した結果です」
「……この15年てのも……」
「それもよりリアリティーを追求した結果です」
「若干耳が痛いんですけど……」
 青島にとってここに書かれていることは少なからず身に覚えがある。特に後半部分。傍目から見てもそうなのかっ!?と思うと何だか無性に恥かしくなってきた。あまりにも自覚がなさすぎた……。
「やりすぎでしょ?てかいらないでしょ?この設定」
 すみれもすみれで耳が痛い。出来るならこの設定は忘れて欲しい。
「これでも足りないくらいですよっ!! 本当はね、すみれさんに近付く男とか、青島さんの浮気疑惑とか、もっともっと盛り込みたかったのにっ!! 魚住さんに却下されたんですよっ!! それ以上はややこしくなるって」
「そんな盛り込み必要ないわ……」
 力説する真下を尻目にすみれは室井のように眉間に皺を寄せ、呆れ気味に嘆息する。
「そんなことより女好きとか俺の浮気疑惑って何だよっ!? 俺ってそんなキャラかっ!?」
「そんなキャラでしょ?」
「そうよね。そんなキャラよね」
 すみれと真下は何でもないように「ねえ?」と重ねて言い合った。
「珍しく意気投合したね……」
 何か俺の扱い悪くないか……?俺ってどんな風に見られてんだよ……?青島は何だか悲しくなってきた。
「まあまあ、二人とも独身なんだし、たまには結婚生活を満喫して下さい。あ、あくまでも捜査優先でお願いしますね」
「「……」」
 青島とすみれは無言で目を合わす。お互い何だか顔が赤い。
 結婚生活。自分たち……婚約期間があるすみれはともかく青島には縁の無かったことだ。いくら擬似とは言え自分の伴侶が隣にいる相手とは。
 二人は互い目を逸らし、俯く。
 この胸の鼓動が隣の相手に聞こえてしまうのではないかと思うほど、大きく高鳴っていた。
「いいですよ〜結婚生活は〜僕もね、雪乃と結婚したばっかりの頃はね……」
「アンタの話は聞いてない」
「……僕……署長……」
 すみれにバッサリと切られ、真下はガックリと肩を落とした。

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