踊る大捜査線

□Best partner
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「青島君のことが、心配だったから……」

 バスで倉庫に飛び込むという無茶を仕出かした彼女の言葉に胸を締め付けられた。
 こんな自分の為に彼女はこんな無茶をした。身体の調子も良くないだろうに、自分のために。

 大事だと思った。心の底から愛しいと思った。愛しくて切なくて、彼女をただ抱き締めた。

「すみれさん……辞めないよね?」

 自分の前から消えようとしているような、そんな彼女に問いかける。だけど彼女は何も言わない。答えてはくれない。
 駄目だ。こんなことでは。はっきりと。自分の気持ちをはっきりと言わないと。

 今まで彼女にはたくさん心配もかけて迷惑もかけた。きっと我侭もたくさん言っただろう。

 だけど。今、一番の我侭を言う。

「辞めないでくれ」

 やっぱり肝心なことは言えなかったけれど、それでも自分には精一杯の言葉で。

 その言葉にその想いを込める。

 ずっと、傍にいてくれ―俺から離れないでくれ―。

 この想いが彼女に届くだろうか。

 肝心な言葉の一つも言えない不甲斐ない自分の想いを、彼女はわかってくれるのだろうか。

 抱きしめる力を強める。

 傍にいることが当たり前で、だけど本当はそんな当たり前のことすら奇跡に近いことだったのだと改めて思い知らされた。

 こんなにも愛しく、こんなにも大切な存在。

 ―もう、黙ってどこへも行かないでくれ。
 ―もう、自分から離れようとしないでくれ。
 ―君がいなくなるなんて、そんなこと、もう耐えられそうにない。

 すると彼女は、静かに頷いた。



「すみれさん……辞めないよね?」

 抱きしめられながら、その言葉を噛み締める。
 抱きしめられているから、その声が直接身体に響く。

 彼はいつだってはぐらかす。本音を伝えてくれない。疑問系で問いかけて自分に答えを促す。なのに私はその言葉でがんじがらめになった。

 だけど。

「辞めないでくれ」

 初めて、懇願されたような気がした。初めて、彼の本音に触れたような気がした。

 そんな風に言われたら、仕事を辞めて彼から離れようと思った自分の決心が揺らぐ。
 みっともないくらいに、彼の胸に縋りたくなる。
 
 彼の温もりが、彼の鼓動が、こんなにも直接近くに感じるのはあのとき以来。

 あのとき、撃たれたとき。
 男の人にあんなに強く抱きしめられたのは初めてだった。

 それまで、彼の胸がこんなにも大きくてあたたかいなんて知らなかった。

 今、自分を包み込むこの温もりから離れるなんてこと、もう出来そうもない。
 抱きしめられた腕を。胸を。この温もりを。ずっと自分のものにしたいと心から願う。

 彼の言葉から、鼓動から伝わる想い。

『ずっと、俺の傍にいてくれ』

 うん青島君。伝わったよ。ちゃんとわかったよ、あたし。

『あたしも、ずっと青島君の傍にいたい』

 そして彼の早い鼓動を感じながら、首肯した。

 

 
 あなたが誰よりも大事で。

 自分の為ではなく誰かの為に身体を張るあなたに心から惹かれた。

 だけどこの距離が関係が心地よくて、一歩も近付くことが出来なくて。

 それでも、ずっと一緒にいたいと思った。

 この関係は単純じゃない。

 同僚以上恋人未満。そうなのかも知れない。

 だけど、自分たちはお互いの目の前で傷付いた。それによってお互いの心まで傷付けた。
 その心の傷を癒せるのもお互いだけで。

 きっとお互いの目の前で傷付いたけれど、お互いを取り戻したもの必然で。
 お互いが足りないものを補い合える、そんな関係で。

 そしてずっと、ずっと傍にいるべき奇跡のような最高のパートナー。

 きっとその言葉が、自分たちには一番似合うのかも知れない。

 それでも。


『―やっぱり愛してる。

 あなたを―』


 end

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