踊る大捜査線
□After all I love you―やっぱり愛してる―
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「……ねえ、すみれさん……」
書類に向かっていると思っていた青島がふいに口を開いた。
深夜の刑事課。
今もここは青島とすみれの二人っきり。
「ん?」
すみれも書類を書き続けながら返事をする。
「俺さ、前々から思ってたんだけどさ……」
「うん?」
すみれはまだ書類から目を離さない。
「一緒に暮らさない?」
「へ?」
青島の爆弾発言に思わず間抜けな声が出て、思いっきり反動をつけて青島の方に向き直る。青島の目は真剣で、決して冗談など言っていないということはわかった。
「大家さんも言ってたじゃない?『今度出て行くときはお嫁に行くときにしてね』って」
「……うん」
一度引き払うつもりだった部屋を大家さんのご好意でそのまま住ませて貰っている。
それは送ってくれた青島と一緒に大家の家に挨拶に行った際に言われた言葉だった。
『今度出て行くときはお嫁に行くときにしてね』
すみれも出来ることならそうしたいとは思っていたが……。
青島は一度自分のデスクに戻ったのにまたも椅子を滑らせてすみれの傍にやってきて言った。
「だからさ……そうしたいんだけど……」
青島はすみれの目をジッと見て言った。
「青島くん……それって……」
「いわゆるプロポーズってヤツです」
青島の言葉にすみれは目を瞠る。
プロポーズ……。
確かに違う石の指輪を贈るとは言われたけれど、こんなに急に……?
「……職場で?」
こんなところで?
「……あ、はい……」
「……宿直中に?」
こんなときに?
「……はい……すみません」
ヘヘッと笑う青島に嘆息する。
確か今日は栗山が宿直だったはずだ。急に代わったのであれば青島も計っていたわけではなさそうだ。
ということは……思いつき?
「……何かもう我慢できなくて……こんなところでこんなときになっちゃったけど……」
我慢しててくれたの……?それだけで胸が熱くなる。
「……まったくもう……ムードもへったくれもないわね」
つい可愛げのないことを言ってしまう。だけど心臓は青島に聞こえてしまうんじゃないかと思うくらい高鳴っている。
「ホントはさ、夜景のキレイなレストランとかいろいろ考えてたんだけどさ……やっぱさ、今言いたくなってどうしようもなくなっちゃった」
そうボソッと言う青島が何だかかわいくて。
「……ホント青島くんらしい」
「……はい」
背中を丸めて申し訳なさそうな青島に思わず笑みが出る。
「……じゃあ、また一緒に大家さんのところに行ってくれる?その前に大分にも行かなきゃだけど」
「え……?じゃ、じゃあ……」
「はい。よろしくおねがいします」
「こ、こちらこそっ!!」
二人して頭を下げる。
そして同時に顔を上げ、笑い合った。
「ねえ、すみれさん……」
「なあに?」
「……抱き締めたいんだけど……」
「……それは勘弁して」
伸びてきた腕をやんわりと払いのける。
「ええ〜」
「ここ、職場だから」
キッパリと言う。
「だってさあ、感極まってんだからさあ……こう……」
喜びの抱擁を……。
「……誰か来たら困るでしょ?」
「困らないから」
何でもない風に言う青島にすみれは真っ赤になった。
「あたしが困るのっ!!……あたしだってね、我慢してんだからね、抱きつきたいの!!」
思わず本音を言ってしまった。まあ、もう意地を張ってもね。
「……ホント?」
「ホントよ……」
「じゃあ我慢する」
青島はそう言って満面の笑みを浮かべる。
「そうして」
ホッとして書類に向き直ると思いがけない言葉が降ってきた。
「じゃあ後でね」
「後で?」
「ほら、暴力犯係のヤツが帰ってきた。入れ替わりで休憩行こう。屋上で待ち合わせね」
「……まったくもう……」
ニッコリと笑いそう言う青島に、すみれは嘆息しつつも小さく微笑んだ。
「うわ……プロポーズだ……」
だるまからの帰り、忘れ物に気が付いて署に戻ってきた和久はそれを見てしまった。
結局捜査会議は王の慰め会に変わってしまい、いい作戦を導き出すことは出来なかったが、それどころではない現場に遭遇した。
「メ、メール!!」
和久は階段の陰に隠れてメールを打つと、そのまま『すみれのペンダント事件捜査本部』のメンバーに一斉送信した。
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