踊る大捜査線

□素直になれたら (ODF ver.)
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 今日見てしまった。
 
 署に青島君を訪ねてきた、とても綺麗な女性。

 その応対をする青島君の態度がとても嬉しそうで、ほんのり頬なんか赤らめちゃってさ。
 これは好きな人なんだ……って思った。
 警務課や交通課の女の子なんか彼とあたしの仲を誤解してるから、あたしの方チラチラ見ちゃってさ。ホント気分悪い。
  
 そう言えばメールを見てニヤニヤしてたことがあった。『どうしたの?』と聞くと、すごく焦ってたけど、あれって今思えばあの女の人のからのメールだったのね。

 ……単なるヤキモチだってわかってるけど、そもそも気を持たせるようなことをする青島君が悪いんじゃない。

 ああもう、青島君にそういう人がいるんだったら、これ以上親しくなんて出来ないわよ。
 そんな人がいるくせにさっきの試すようなセリフはなんなのよ? 信じらんない。冗談じゃない。

 なんで人が決心したときに限ってああやって追いかけてくるのよ。

 普段は飄々として掴み所なくてさ、そのくせ気をもたせるようなこともして。

 彼女が来たときの彼の嬉しそうな顔。幸せそうな顔。
 その顔が好きな人のことを思っている顔だということはわかる。
 

 あのとき、辞めて大分へ帰ろうとしたあのとき、バスの中で彼の危機を知った。

 いてもたってもいられなくて、バスで駆けつけた。
 倉庫に突入なんてホント馬鹿なことをしたと思う。無茶をしたと思う。
 でもそれだけ、彼のことが心配だった。

『辞めないでくれ』

 青島君が初めて発した、懇願にも似た言葉。
 彼にそう言われて、何だか二人の距離が縮まったように思えた。彼の傍にいていいんだと思えた。

 だけど、そう思っていたのは自分だけだったのだろうか?

 あれから彼は何も言ってくれない。
 請われていたのは『恩田すみれ』ではなく『刑事・恩田すみれ』だったのかも知れない。

 だから、再び自分の気持ちに蓋をした。
 課長のお陰で警察に戻って、仕事内容も内勤に近い仕事を回して貰えるようになって。それでも時折現場にも出て。
 だけど傷が痛んでどうしようもないこともあった。
 彼がそんなあたしを心配そうに見ていて声をかけられることもある。だけどいつも誤魔化す。

 彼が望む『刑事・恩田すみれ』であるために。
  
 刑事としてでも彼の傍にいると決めたのは自分だ。だから彼にどんなに大切な人が出来たとしても、それは受け入れて祝福してあげないといけない。
 
 だけど複雑なこの気持ちは、可愛くない方向に向かっている。
 嫉妬という、醜い心を晒している。


 また少しだけ振り向く。

 青島君が先程いた場所にまだいる。
 遠目にもわかる。その顔は先程の呆然とした顔ではなくて怒っているような、それでいて悲しそうな顔。
 
 なんでそんな顔するのよ。意味わかんないわよ。

 ただの同僚のあたしに冷たくされたくらいでそんな顔するような子供なの?

 あたしはその顔を振り切るように改札を通って、丁度ホームに入ってきた電車に飛び乗った。

 
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