踊る大捜査線

□素直になれたら (ODF ver.)
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「すみれさ〜ん」
 振り返ると青島君がモスグリーンのコートを翻して走ってきた。
「冷たいじゃない。先に帰るなんてさ」
 背中を丸め、あたしの隣まで来て顔を覗き込んでくる。
「別に一緒に帰る約束したわけじゃないでしょ」
 素っ気無く言ってやる。実際なんの約束もしていない。冷たいなんて言われる筋合いなどない。

「……なんか……機嫌悪い?」
 さすがに気付いたようだが、不機嫌の理由は話したくないので黙っておく。
「別に」
「……機嫌悪いよね?」
 しつこい。もうほっといて欲しいんだけど。
「気のせいじゃない?」
「……そうかな」
「そうでしょ」
 極力声音は普段通りで。結構無理してるんだけど。

「ねえ、なんか食べてかない?」
「……いい。早く家帰りたいから」
 今は青島君の顔見たくないし。お腹ペコペコだけど、きっと青島君が目の前にいたら胸がムカムカして食べられそうにないし。
 自炊なんてしたくないから、帰りにスーパーでお弁当でも買って帰ろう。
 ちょっと寂しいけど、今青島君とご飯食べるよりマシ。

「……すみれさん……おかしいよ」
「何がよ?」
「誘ってんのに食いつかないなんて」
 いつもいつも食べることばっかりみたいに!! あたしにだって感傷に浸って食欲のないときくらいあるわよ(今は別に食欲がないわけじゃないけど……)。
「悪かったわね、食欲ばっかで」
「待ってよ、すみれさんっ」
 青島君を置いてスタスタと歩く。青島君は慌てて追いかけてきた。

「ついて来ないでよっ!!」
「やっぱ怒ってんじゃんっ!!」
「たった今青島君が怒らせたのっ!!」
「なんだよっ!? 食欲ばっかってのは自分で言ったんだろっ」
「っ、うるさいわねっ!!」
「それについてくんなって言われても駅そっちだからね」
 ごもっとも……ではあるけど、ホント今日は青島君といたくない。だから何とか定時で切り上げて帰ってきたのに。

「……」
 とにかく無言で歩く。今はホント関わりたくない。
「……すみれさ〜ん……」
「……」
「愛してるよ〜」
「!?」
 思わず振り向いてしまった。見ればしてやったりな顔。
「やった。振り向いた」
 なんて男だ。
「……最低」
 低い声で言ってやった。性質が悪い。こんな冗談、最低だ。
「だって、すみれさんが無視するからさ……」
「冗談でもそんなこと言わないで」
「……ごめん」
 なんでそっちが傷ついた顔してんのよ。泣きたいのはこっちだ。
「謝るくらいなら言わなきゃいいのよ」
 その『ごめん』だって、今は傷つく。

「……冗談じゃなかったら……いいの?」
 何言い出すのよ。この男は。
「……人による」
「……俺は……どっち?」

 卑怯だ。その聞き方は。
 結局自分の気持ちは言わずにこっちの気持ちを聞き出そうとしている。
 なんでこんな男がいいのだろう。
 他の女の子たちはこの男の実態を知らないんだ。
 最低だ、最低!!

「……どちらかだなんて……聞かない方がいいんじゃない?」

 それだけ言って早足で歩く。
 肩越しに少し振り向くと、青島君は呆然と立ちすくんでいた。

 だからなんでアンタが傷つくのよ。
 元々はっきりしないアンタが悪いのに。
 なんであたしが傷付けたみたいになってんの?
 
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