踊る大捜査線

□change the world (ODF ver.)
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(すみれさん……喜んでくれるかな?)
 そんなことを思うと、仕事も手につかなくなる。
 でもそんなことじゃ係長として示しもつかないし、何より定時に終われない。

 とにかく事件が起きないことを祈る。心の底から。

(神様、いるんだったら今日は事件なんか起こさないで!!)

 そもそも事件は人間が起こすものであって神様が起こすものではないけれど、それでも今日は祈らずにいられない。

 今日は勝負なのだ。

 今日こそ、ここ何年間も言えなかった言葉を言う。
 茶化さないで、真剣に。

 そう思っていたのに……茶化すどころか試すような形で言ってしまって……彼女を怒らせてしまった。
 
 なんでいつもこうなんだろう……。

 どうにもタイミングが悪いというか……いや、今のは自分が悪い。確実に俺のせいだ。

 茶化さないって決めたのに、何か意地になってしまった。

 呆然とする。

 彼女の言葉に喜びもするし落ち込みもする。
 まさに一喜一憂。自分の全ては彼女だと思わずにはいられない。

 こんな感情、きっと初めてだ。

 今までそれなりに恋愛というものはしてきたつもりだ。
 しかし、今まで付き合ってきた女たちに対する気持ちと彼女に対する気持ちは明らかに違う。

 ずっと一緒にいたい。

 もっと若ければ勢いで突っ走れたのかも知れない。
 だけど。時間がかかり過ぎた。
 その時間が逆に自分たちを子供に戻した。
 どうすればいいのかわからなくなって、ただこのまま彼女が傍にいればいいとさえ思うようになって。
 一緒にいる時間が心地よくて。この関係がずっと続けばいいと思うようになって。
 そして自分の方が彼女の存在に甘えていた。

 あのときも、自分の命が余命幾ばくもないと思っていたときも、彼女は自分に生きる力を与えてくれたのに。
 自分は彼女の苦しみにも気が付かずに……。

 気が付けば彼女は自分から離れようとしていた。

『我慢すんじゃねえよ。我慢せずに弱音吐きゃいいだろうが!』
『言えるかい、バカ亭主に!』

 彼女にとって自分は弱音を吐けるような男ではなかった。

 だからもっと強くなりたい。彼女を守る男でありたい。そう思った。


 あの倉庫の一件で、少し、ほんの少しだけど自分たちの距離は近付いたと思っていた。

 しかし戻ってきてくれた彼女はいつも通りで。

『辞めないでくれ』
 
 自分の精一杯の言葉も、その想いは通じていなかったのか。
 そうだとすれば、きっとはっきりと言わなかった自分が悪いのだろう。

 確信めいたことは何も言っていないと気が付いた。
 ただ『辞めないでくれ』、即ち『警察官を辞めないでくれ』としか言っていないのと同じだ。
 自分にとっては精一杯の言葉ではあるけど、決して『好きだから傍にいてくれ』になるわけではない。
 いくら自分がそう思っていたとしても、彼女はそういう風に感じなかったのかも知れない。

「……畜生……」
 情けなかった。不甲斐なさ過ぎて反吐が出る。

 肝心なことを言えない自分も、言わなくても気付いて貰えていると思っていた自分も。
 どこまでも馬鹿だ。底抜けに馬鹿だ。  

 でも、こんな曖昧な関係を打破しなくては。
 もう彼女なしでは走り続けることも出来ないのだから。



 なのに……。

 遠ざかる彼女の小さな背中を見つめる。

 なんでこんなことになったんだろう?

 今日は無理かも……そんなことを考えてトボトボと歩く。

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