踊る大捜査線
□change the world (ODF ver.)
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どんどん小さくなっていく彼女の背中を追う。
「すみれさ〜ん」
彼女は少し振り向いてこちらを見た。
「冷たいじゃない。先に帰るなんてさ」
今日は随分と早い。定時丁度に署を出たようだ。
俺は気付けばいない彼女を追って、署を飛び出した。
今日は絶対に早く仕事を切り上げようと思っていた。彼女が遅くなりそうだったら何か理由を付けて残るつもりだった。
「別に一緒に帰る約束したわけじゃないでしょ」
確かにそうだけど……今日の彼女は異常にピリピリしている。
「……なんか……機嫌悪い?」
恐る恐る声をかける。
「別に」
かなり素っ気無い返事。
「……機嫌悪いよね?」
どうしてもその理由が知りたいから、重ねるように聞くと、
「気のせいじゃない?」
いつも通りの声が返ってきた。
「……そうかな」
「そうでしょ」
そうとは思えないけど、それでも気を取り直す。
「ねえ、なんか食べてかない?」
「……いい。早く家帰りたいから」
想定外だった。まさかその返事が返ってくるとは思わなかった。
「……すみれさん……おかしいよ」
思わず思ったことを口にする。
「何がよ?」
「誘ってんのに食いつかないなんて」
今の彼女には失言だったのだろうか? みるみる顔色が変わっていく。
「悪かったわね、食欲ばっかで」
「待ってよ、すみれさんっ」
怒らせた? 完全に?
「ついて来ないでよっ!!」
「やっぱ怒ってんじゃんっ!!」
「たった今青島君が怒らせたのっ!!」
ちょっとムッとして、言わなくていいことを言ったようだ。
「なんだよっ!? 食欲ばっかってのは自分で言ったんだろっ」
「っ、うるさいわねっ!!」
「それについてくんなって言われても駅そっちだからね」
「……」
彼女は無言を貫こうとしている。
「……すみれさ〜ん……」
まだ無視ですか……?
「……」
こうなりゃ意地でも振り向かせる!!
「愛してるよ〜」
「!?」
彼女は目を大きく見開いて振り返った。
「やった。振り向いた」
「……最低」
彼女の顔はみるみる険しくなっていく。しまった、完全に怒らせた。
「だって、すみれさんが無視するからさ……」
男らしくない言い訳が口をつく。
「冗談でもそんなこと言わないで」
「……ごめん」
こんなことでこの言葉を使うのは卑怯だった。いくらこちらを見て欲しいからと言っても言うべきじゃなかった。
「謝るくらいなら言わなきゃいいのよ」
その通りだ。
でも……
「……冗談じゃなかったら……いいの?」
じゃあ、本気だったら言ってもいいんだよね?
「……人による」
「……俺は……どっち?」
自分でも卑怯だと思う。こんな聞き方、卑怯だ。
冗談めかして『愛してる』なんて言って彼女の本心を探ろうとしている。
男らしくない。ホントに卑怯だ。
でも、知りたいんだ。
彼女が俺のことを、本当はどう思っているか。
「……聞かない方がいいんじゃない?」
彼女の口から出た言葉は思いがけない言葉だった。
どちらともとれる言葉。
この関係を壊すから、お互い言わなくてもいい、という意味。
自分からそんな言葉は欲しくない、という意味。
どちらにしても、彼女を想う俺にはきつい言葉だった。
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