踊る大捜査線
□夕暮れ商店街
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「そう言えば署長も来ました。奥さんと」
「雪乃さんと?」
緒方が反応する。
「お綺麗な方ですね。とても署長の奥さんとは……」
「それ、みんな言うよね」
夏美は笑いながら言った。
はっきり言って美人だった。愛想もよくてとても魅力的な女性だ。
あの女性がどうしてあの署長と結婚したのだろう。
緒方も夏美も雪乃のことはよく知っているらしく、和久の言葉に同意した。
「署長が妙にテンション高くて。奥さんもすっごく楽しそうでしたけど、最後には殴って引き摺って行っちゃいました」
「雪乃さんも刑事だもんな。容赦ないよ」
真下署長の妻・雪乃も元刑事だ。産休中だと聞いたが、また刑事に戻るのだろうか?
もし現場復帰をしても夫が署長をしている湾岸署に配属される確率は少ないかも知れない。
そう思うと何だか少し残念な気もする。
「係長とすみれさんももの凄く顔引きつってました」
開店祝いだと言い、友人夫妻としてやってきた真下と雪乃。
真下は妙に高いテンションだったのだが、どうも青島とすみれの夫婦姿を見るのがよっぽど嬉かったらしい。
そのテンションから明らかに不審者である真下に青島とすみれは引きつりながら応対していたのだが、さすが元刑事、空気を読んだ雪乃がさり気に『営業の邪魔になるから帰りましょう』と促した。
しかし、完全にテンパッている真下に元ネゴシエーターの姿は微塵も感じられず、挙句『青島さん、僕は嬉しいです!!』などと言い出す始末。
『君の命令でしょ?』という二人の心の声をはっきりと聞いた(気がする)和久は、二人の様子を窺いながらも雪乃の動向も見ていると、雪乃はニコニコと笑ってはいるが何だか米神の辺りがピクピクと動いているような気がした。
そして業を煮やした雪乃が実力行使に出た。
他の客にわからないように真下の鳩尾に一発入れると、そのまま悶絶する真下の襟首を掴んでニコニコと手を振りながら引き摺って去って行ったのだった。
和久はそれを呆然と見送るしかなかった。しかし青島とすみれは雪乃に手を振りながら見送ると、『さすが雪乃さん』と笑い合っていた。
しかしその後、『あたしに室井さんとお見合いさせようとしたくせに何あれ?』というすみれの爆弾発言に、『何それ?聞いてないけど』といつもより低音の青島が食いつき、『別に言う必要ないでしょ?』『何で室井さんなの?』などという言い合いが始まったので、和久はうんざりしながら何やら痴話喧嘩をしている二人を尻目に配達に出てしまった。
しかし、帰ってきたときには険悪なムードも微塵も感じられなかったどころか何やら甘い雰囲気も漂っていたような気がしたのは気のせいだったのだろうか。自分のいない間、一体どんな痴話喧嘩が繰り広げられたのか気になるところではあるが……。
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