踊る大捜査線

□White Christmas
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「主任。面会時間過ぎてるのに、青島さん出てきませんね」
 ナースステーションで若い看護士が看護主任に言った。
「本当ね」
「私、声かけてきましょうか?」
「そうねえ……」
 看護士が立ち上がったそのとき、
「待って」
 主任は声をかけた。
「今日だけ、大目に見ましょう」
「いいんですか?」
「ホワイトクリスマスだしねえ」
 主任がそう言うと、看護士は窓の外に目を向けた。
「あら? 雪降ってきたんですね」
「こんな日に引き離すのも野暮ってモンじゃない?」
「そうですね」
 若い看護士はクスクスと笑い、主任は微笑み、窓の外に舞う雪を眺めた。

「静かねえ……」 
 二人揃って窓の外を眺める。
 積もるほどの雪ではないけれど、この部屋が世界から切り離されたような錯覚を覚える。
 けれどそれは決して不快なものではなく、それどころかとても居心地がよくて。
 この世界に二人っきり。そんな気分だった。
「来年のクリスマスは何してるかな?」
 ふいに青島が口を開く。
 来年もこうして二人で過ごせるかな?そうでなくてもその背中が自分の背中越しにいてくれるかな?
「そうね。飛び回ってるわね、絶対」
 そう言って笑うすみれに、青島は一瞬呆気にとられたが、すぐに一緒になって笑った。
「まあこんな穏やかなクリスマスは滅多にないよね」
「うん。こんなのもたまにはいいけど、でも走り回ってる方があたしって感じがする」
「かもね」
「でしょ?」
 悪戯な笑みを浮かべ、すみれは自信満々に胸を張る。
 そんなすみれを見ていると、青島は何だか少し、鼻の奥が痛くなるのを感じた。
 
 彼女はこんなところに閉じ込めていい人間じゃない。
 走って、犯人を投げ飛ばして、そしてお腹が空いたら食べて。
 そんな生き生きとした彼女が見たい。
 来年は慌ただしいクリスマスかも知れないけれど。
 それでも、彼女がこの空の下を飛び回っているのなら。

 きっと、それだけで幸せなんだ。


 青島が面会時間が過ぎていることに気付いて慌てて飛び出すまでの僅かな時間。

 二人だけのホワイトクリスマス―。


 end
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