踊る大捜査線

□鼓動(青すみ・OD1後)
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 病室に入ると、彼はベッドの上で寝ていた。

(まだお昼前なんだけど……)
 今日は当直明け。
 本当は面会時間ではないけれど、『青島さんはすぐに無茶するので見張っておいて下さい』と特別に許可されている。
(まるで家族扱いね)
 何となくこそばゆい。
 ここの人たちはあたしを彼の恋人か何かと勘違いしているようだ。
 直接聞かれたわけではないからこちらから訂正するのもおかしな話で、どうしようもないからそのままにしているのだけど、やっぱり変な気分だ。
 気持ち良さそうに寝ている彼のベッドの傍の椅子に腰掛ける。
(さて、どうしようかな?)
 このまま帰るかな? 顔も見れたし(寝顔だけど)。
 でも次来たときに『なんで起こしてくれなかったの?』とか『待っててくれなかったの?』と非難されそうで。
 とりあえず、彼の頬を突付いてみる。
 反応なし。
 でもムニャムニャと子供のようで、見ていると思わず微笑んでしまう。
 その寝息を聞いていると、彼が生きていることを改めて実感させられる。
 
 あの日、血を流した彼を抱き抱えた。
 苦しそうに喘ぐ彼の手を握り、『お願い、生きて』と祈り続けた。

 一度、何も言わなくなった彼の鼓動が止まってしまったのではないかと、心臓が張り裂けそうな心地だった。
 ただ、眠っていただけだけど……。

 ここで眠っている彼の胸に手を当てる。

 動いている。

 この心臓は確かに動いている。

 生きている―。

 こうして彼の鼓動を感じると、思わず涙が出そうになる。
 目の前で失いかけて、より強くなる彼への想い。
 彼がかけがえのない存在だと思わずにはいられない。

 涙を堪えられなくて、病室を出ようとしたら、

「ねえすみれさん、まだ傍にいてよ」
 彼が微笑みながら、あたしの腕を掴んだ。
「狸寝入りっ!?」
「違うよ。今起きたの」
 そう言って悪戯に笑う。
「ウソッ!?」
「ホントだよ」
 その笑い方から嘘だとわかる。
 何だか無性に腹が立って手を振り払おうとしたら、
「いてっ!!」
「青島君っ!?」
 痛みに顔をしかめる彼に近付くと、
「ウソ」 
 と笑った。
「っ……知らないっ!!」
 そっぽを向くあたしの腕を彼は引き寄せ、あたしたちは自然と近付く。
「ねえ、すみれさん」
「なによ……」
 恥かしさに顔が見れない。
「俺、ちゃんと生きてるよ」
 その言葉に彼の顔を見る。
「ちゃんと生きてるからさ、もう泣かないでよ……」
 鼻の奥が痛くなる。
「……もうっ……青島君反則っ!!」
「なんでよ?」
 涙声のあたしの頭をクシャクシャと撫でる。
「泣かないでって言ってんのに」
「うるさいっ!!」
 ついに涙がこぼれた。

 泣かせちゃった。とおどけて言っていても、本当は焦っているのがわかるから。

 だんだん困った顔になるのが見たくて、もう涙は止まっているけど、まだ泣き真似をしててやろう。

 
 end
 

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