踊る大捜査線

□change the world
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 どうして上手くいかないんだろう……。
 きっと、近くにいすぎて、この関係の居心地の良さに甘えていたんだ。
 彼女はいつだって自分の傍にいると思っていた。
 この関係を続けていれば、彼女も自分の傍にいてくれると思っていた。

 でもそれじゃいけないと思ったのは、一年ほど前。

 自分に余命幾ばくもないという疑惑が持ち上がり、今まで曖昧にしてきた彼女との関係に対して後悔の念を抱いた。
 結局それも間違いだったけど、あのとき言ってしまっていたらどうなっていたのだろうと思った。

 本当の自分の気持ちを考えた。
 
 自分は彼女とずっと一緒にいたいと思っていること。
 何よりも大事な存在であること。
 そして、本当はいつも彼女の全てを自分のものにしたいと思っていたこと。

 大事なのに、好きなのに、愛しているのに、その気持ちに蓋をしてこの関係を続けようとしていた。

 一度この手の中で彼女の命を失いかけたときから、ずっと彼女を失うことを怖いと思っていた。

 怖いから、ずっと誤魔化そうとして……。

 だけどそれでは何も変わらない。
 だから変わろうと思った。

 彼女の誕生日にプレゼントを贈ろうと思った。
 それは毎年贈ってはいるけれど、今年は少し違う。

 思い切ってジュエリーショップに入った。

『奥様にプレゼントですか?』
『えっと……あの、同僚なんですけど……』
 同僚にこんなジェリーショップのアクセサリーを贈ろうとしている自分が何を考えているのかわかったのだろうか、店員はニコッと微笑み、
『こちらなんていかがでしょう?』
 連れて来られたのは指輪が陳列されているコーナー。
『えっと……』
 ダイヤモンドの指輪。これってエンゲージリングだよな……?
 やっぱりいきなりはな……とりあえずペンダントなんかがいいかな……なんて思って見ていると、どうにも気になる石があった。

『これ……』
『はい、タンザナイトでございます』
『タンザナイト……』
 それは青なのか紫なのか、とても複雑な色で、でも吸い込まれそうな深いブルー。
『……この石のペンダント、ありますか?』
『はい、ございますよ』
 案内されたコーナーには指輪もペンダントもあった。
 でも一番彼女に似合う色目はまだ石のまま。
『こちらの石はご自分のお好きな台座に加工することが可能なんですよ。こちらのデザインから選んで頂いて……』
 即決だった。その色がどこか彼女のような、そんな気がして……。
 それをペンダントに加工して貰うように依頼した。
 値段はそこそこしたのだが、それでも自分が思っていたよりも手頃で。
 別に、給料の3ヶ月分を用意したわけじゃないけど……実はそのつもりでコツコツと貯めていた分があったりなかったり。
 いつか、彼女とそうなれば……と思っていたわけで……。
 そもそも何も言ってないのに、給料の3ヶ月分もあったもんじゃない。
 
『出来上がりは11日になりますが……』
『当日か……』
『でしたら会社までお持ち致しましょうか?』
『いいんですか?』
『当店はアフターサービスも万全ですから』
 その店員は自分の勤め先が湾岸署と聞いて少し驚いていたけど、『確かにお持ちいたします』と言って微笑んだ。

 今日、その店員がペンダントを署まで持ってきてくれた。
 出来上がりの様子はメールで受け取っていたので、そのまま梱包して貰うようにした。
 それを受け取ったとき、思わず頬が緩んだ。
 
 ラッピングされた箱を隠すようにカバンに仕舞い、ウキウキと刑事課に戻ると、夏美ちゃんに『なんかいいことでもありました?』と聞かれた。
 そんなに顔に出ていたのかと苦笑した。

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