踊る大捜査線

□素直になれたら
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「それにしても青島君」
「うん?」
「意外と独占欲強いのね?」
「へ?」
 青島君は間抜けな声を出した。
 こんなこと、突然言ったらどうなるか。
「アクセサリーとか、身に付けるものプレゼントするのって、独占欲の表れだって」
「そうなの?」
 やっぱり知らないか……。
「意味なし……ね」
 ひょっとして……なんて思ったけど、やっぱり深い意味なんてないよね。
「あ、でもそうかも」
「ん?」
「ううん。何でもない」
 青島君は満面の笑みを浮かべ、それから何か思い出したように「あ!!」と言って、
「今気付いた!!」
 と手を叩いた。
「なに?」
「タンザナイトって12月の誕生石ってことは……」
「うん?」
 あたしの顔を覗き込んで、嬉しそうな顔で言った。
「これ付けてる限り、すみれさん、俺と一緒」
「へ?」
 何? どういう意味?
「俺、12月生まれでしょ?」
「そうね」
「俺が守ってあげるって言ったでしょ?」
「そうね……あ……お守り?」
 あ、そうか。これを持ってる限り、青島君が守ってくれてるって意味?
「そうだよ。俺、無意識にお守り選んでたんだ」
 その顔が何だか嬉しそうで……やっぱり胸がドキドキする。

 きっと昔、守るって言ってくれたからだと思う。でも、その約束を今でも守ってくれようとしていることが嬉しくて……。

「すみれさん、明日非番でしょ?」
「うん」
 あたしが返事をすると、青島君はあたしの顔を覗き込んで言った。
「俺も非番だからキャビアよりも高いもの、食べに行こうか?」
 ホントに……?
「いいの?」
「今日、俺そのつもりだったんだ。でもすみれさん、ふて腐れちゃうし」
「ふて腐れてなんかないわよ」
「怒ってたじゃない?」
 まあ……確かにね。理由はやっぱり言えないけど……。

「あれは……青島君が食欲ばっかりとか言うから……」
 とにかく誤魔化す。ああ、これがいけないのよね、きっと。

「それ言ったのすみれさんで俺じゃないって!!」
「そうだっけ?」
「そうです!!」
「こりゃ失敬」
 素直に『ホントはあの人が気になった』って言えばいいのに……。

「ホントにもう……」
 素直じゃないんだから……その声が聞こえたように気がした。

 きっと青島君もわかってる。

 あ、でも……ふいにあの言葉を思い出す。
「でもあんなこと言うの卑怯!!」
「あんなことって?」
 キョトンとして青島君はとぼけている。
「あんなことはあんなことっ!!」
 それをあたしに言わせるつもり?

「あ、ああ、『愛してる』ね」
 ニヤっとして言う。その顔、なんかムカつくんだけどっ!!
 てか単刀直入に言わないでよ……恥かしいんだから。その単語、撃たれたあのとき言っちゃって……でも誤魔化しちゃったけど……。それに普段から冗談めかして言い合ってるけど、ホントはその度にドキドキしてる。
「……」
「ごめんってば……でもさ……」
 その瞬間、青島君の顔が真剣みを帯びたような気がした。
「?」

「俺だってショックだったんだよ。すみれさんに『聞かない方がいい』って言われて……」
「……」
「さっきもさ、その格好で出てきたから、誰か他のヤツとお祝いしてたのかな?って……ちょっと……ショックだった」
「青島君……」
 そんな風に思ってくれたの……?

「ねえ、すみれさん」
「うん?」

「今さ、あのセリフ、本気で言ったらさ、それでも『聞かない方がいい』って言う?」
 
 青島君はあたしの目をジッと見つめる。

「……」
「……」
 
 しばしの沈黙。
 青島君もあたしも、見つめ合ったまま。
 
 青島君の目は、いつもの彼とは違う真剣さが窺えた。

 ……もうそろそろ、素直になってもいいのかも知れない。

「言わない……」

 あたしがボソッと呟くように言うと、その途端、青島君の顔がパアっと明るくなった。

 そして、耳元で囁くようにその言葉を言った。


 明日、オシャレをして青島君と待ち合わせ。

 そして、胸元には彼が守ってくれてるって証。

 そしてきっと、その距離は縮まっているはず―。


素直になれたら。

きっと世界は変わるはず―。


 end
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