踊る大捜査線

□素直になれたら
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「これ……」
「何なの?」
「誕生日、おめでとう」
「え?」
 誕生日?
「え?」
 青島君は呆けた顔をした。
「もしかして……気付いてなかったの?」
「忘れてた……」
「……マジで?」
「マジで」
 すっかり忘れてた……ここのところ忙しすぎて……正直なところ、忘れてたかった……のかな?
「なんだ……てっきり……」
「なに?」
「何でもない……」
 青島君は何か言おうとしてたみたいだけど止めた。でもそれより、何くれたのかしら?
「……開けていい?」
「どうぞ」
「……あ……キレイ……」
 箱の中身は青い石のペンダント。サファイアのようでちょっと違う。もっと鮮やかで深みのある青。
「タンザナイトって言うんだって」
「タンザナイト……」
 ペンダントを取り出し、じっくりと見る。ペアシェイプって言われる、ドロップ型の石。ホント、キレイ……。
「12月の誕生石だからすみれさんの誕生石とは違うんだけどね、でもすみれさんって色だなって……」
「……」
「石言葉がね、すみれさんって感じで……」
「……」
「えっと……高貴・冷静・空想……」
 青島君は目線を上げて考えるように言った。
「空想?」
「……は……ちょっと違うよね。それとね……誇り高き人」
 誇り高き人……。
「ね?すみれさんって感じ」
 青島君はニッコリ笑って言った。
 その顔を見れただけで何だか嬉しくなって……。
「……嬉しい……」
 思わず、ホント思わず口をついて出て。
「気に入ってくれた?」
「うん……ありがと……」
 素直に、ホントさっきまでの意地っ張りはどこへいったんだ?というくらい素直にその言葉は出た。
「よかった」
 青島君のホッとした顔を見たら、あの女の人の顔が浮かんできた。
「……でもいいの?」
「なにが?」
「……だって……付き合ってる人、いるんじゃ……」
 その瞬間、青島君の目が更に大きくなって。
「なんでっ!?」
 青島君は叫んだ。
「なんでって……」
 あの人、彼女でしょ?
「いないよ、そんなのっ!!」
 こんな夜中になんて声出すのよっ!?
「ちょっ、声大きいっ」
「なんでそうなんのっ!?」
 何だかムキになって言ってくる。
「だって……今日、綺麗な人、来てたじゃない? 青島君、すっごく嬉しそうだったし……」
 あのときの青島君の顔が頭の中でプレイバックする。ホントに嬉しそうで、見ていて、苦しくて、胸が締め付けられた。
「違うよっ!! あの人はジュエリーショップの人っ」
「え?」
 ジュエリーショップの人……?
「これ、出来上がるの今日だったんだけど、取りに行けそうにないし……そしたら持って来てくれるって言うから……」
「だって、すごく嬉しそうだったし、すっごい綺麗な人だったから……」
「これ出来上がるの、嬉しかったのは俺も一緒。すみれさんが喜んでくれるかなって思ったら、つい顔に出ちゃった」
 照れ笑いのような顔をして、青島君は頭を掻いた。
「……この間メール見てニヤニヤしてたし」
「あれはっ……これこんな風になりましたって……加工するところから画像届いたからってすぐに送ってくれて……」
 ムキになって……少し顔を赤らめて否定する青島君が何だか……かわいくて……。
「……そうだったんだ……」
「だから、俺、付き合ってる人なんていないから」
 真剣な顔でそう言う青島君にドキッとした。

「……じゃあ……これからも奢って貰っていいんだ……?」
 それを誤魔化すように、それを口にした。
「毎回……ってわけにはいかないけど……」
 苦笑して言う青島君の顔を見ていると、さっきまでもモヤモヤは一体なんだったんだって思えてくる。
「なんだ……そうだったんだ……」
「ホッとした?」
「うん。もう奢って貰えなくなったらこれから誰に言ったらいいのか、ちょっと悩んじゃった」
「そこ?」
 キョトンとした顔で青島君は言った。
「他にどこにあるの?」
 どこまでも素直じゃないのあたし……本音、言っちゃってもいいじゃない……。
「……ま、いっか」
 それでも青島君が嬉しそうだから。あたしも『まいっか』なんて思っちゃったり。

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