踊る大捜査線

□君が笑ってくれるだけで
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「ところで青島君」
 すみれは大根を頬張りながら言った。
「ん?」
「合コンだったんでしょ?」
「あ……そう、ね」
 何となく気まずいというか……合コンの話は居心地が悪い。
 別に悪いことをしているわけじゃないが、やはり自分の意中の人物に『合コンに行った』と思われることが何となく……。
「途中で抜けてきたの?」
「ああ、うん……ほら仕事もね、残ってたしね……」
「……ふ〜ん……」
「あ、でも最近は合コンって言ってもセッティングだけで、別に自分がってわけじゃなくて……」
「別に聞いてないし」
 すみれは興味なさげに言った。
「……あっそ……」
 軽くショックなんですけど……もっと反応して欲しいというか……青島は胸中で嘆息した。

「美味しいなあ、おでん」
「それはよかった」
 何か誤魔化されたような気もしなくもないが、とりあえず返事しておく。
 
「……そう言えばあたし……」
 すると突然すみれが口を開いた。
「うん?」
「最近全然合コン行ってない」
「へ?」
 思わず間抜けな声が出たと自分でも思う。
「いいよね青島君。合コンのアテあるじゃない? あたし最近全然よ?」
「……すみれさん、合コンしたいの……?」
「したいというか……お誘いがなくなって寂しいのよねえ。やっぱ年齢のせい?」

 実のところ、皆青島の目が怖くて誘えないだけで、すみれはいつまで経っても湾岸署のアイドルであることは変わらないのだが……。

「警務課とか交通課なんてかわいい子いっぱいだもんねえ? いいわよねえ、若くてかわいいって」
 何か刺がある……?と思わなくもない……。
「そんな若い子と合コンなんて羨ましいわ、青島君」
「俺だってセッティングしてるだけだって。この年齢になると若い子と話合わなくって」
 苦笑しながらおどけて言ってみる。
「ま、あたしには関係ないけどね」
 サラッと何事もなかったように言われると何となく悔しい。
「……すみれさん、合コン行きたいのは若い子と話したいから? それとも彼氏が欲しいから?」
「……別に合コンに行きたいわけじゃないわよ」
「じゃあ何?」
 青島はすみれの顔を覗き込んだ。
「……」
 無言のすみれの顔が何となく赤くなっているように見える。
「……もしかして……ヤキモチ?」
 つい嬉しさが顔に出てしまう。青島はニヤニヤしながら言った。
「……そんなわけないでしょ」
 こちらは反して機嫌が悪そうだ。
「俺だってすみれさんが素直になってくれたら合コンなんて行かないのに」
「何のことよ?」
 怪訝な顔で青島を見る。
「俺はいつだってあなたのものですよ?」
 ニコッと笑って言うも、
「……バカじゃない?」
 顔を思いっきりしかめたすみれは言い放った。
「ひどっ!!」
「ダメダメ。そんな陳腐なセリフであたしを落とせると思ったら大間違いよ」
 すみれは挑むような目で言う。

「じゃあ、なんて言ったら落ちてくれるの?」
 冗談めかして言うけどほとんど本気。このワイルドキャットは何て言ったら落ちてくれるんだろう。

「それは自分で考えなきゃね」
 そりゃそうだ。こういうことは自分の言葉で勝負しなければ。でも何分彼女のこととなると自信がないというか、尻込みしてしまうのは否めない。だから気の利いた言葉が浮かばない。

「あたしは他の子と違ってそう易々と騙されてやらないけどね」
 ニッコリと笑って言われれば、やはり信用されていないのだと脱力する。
「なんだよ、騙すってひでえなあ」
 本当にそんなことするわけがない。元よりすみれという大事な存在が出来てから、おかしな言い方だが、他の女の子を引っ掛けようとか、そういうことを思ったことはない。

 でも実際合コンへ行ったことには違いない。
 そんな自分が何を言っても信用して貰うなど不可能なのかも知れない。
 青島は胸中で深い深い溜息を吐いた。 


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