踊る大捜査線

□君が笑ってくれるだけで
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 青島は少し足早で歩いた。
 本当は走りたいところだけど、ビニール袋の中のものがひっくり返ったら困る。
 逸る気持ちで歩き慣れた道を急ぐ。
 
 署に入ると一目散に刑事課へ。

 刑事課を覗くと目当ての姿はない。
 青島の姿に気付いた暴力犯係の当直が「休憩室ですよ」と言ったので、青島は笑顔で礼を言って休憩室へと向かった。
 そう言えば何も言っていないのに自分の目当ての人物が誰かよくわかったなと思うが、何だバレバレなのか?と思うと少し気恥ずかしくなった。

 青島とその目当ての人物は言わば湾岸署の名物でもあった。
 いつも二人で息もぴったりで。
 でも付き合ってる様子もなく、ただまわりがヤキモキしているだけ。
 好き合っているのは周知の事実なのだが、何分素直じゃない二人だ。それを認めようとしないから始末が悪い。
 そんなまわりの様子に気付いていないわけではない。心配されてるな……と、思うこともある。
 自分でもこの曖昧な関係を脱却しないといけないと思うこともある。だけど、当の本人の気持ちがまったく読めないのだ。長年刑事という職業をやっているけど、彼女の気持ちだけはわからない。

 休憩室に行くと目当ての小さくて華奢な身体を見つけた。

「すみれさん」
 青島は声をかけると、すみれは青島を見て目を大きくした。
「何してんの? こんな時間に」
「仕事残ってるからね。ついでに差し入れ」

 そう言ってビニール袋を差し出す。
 すみれはその袋を受け取り中身を取り出した。

「わ!! おでん!!」
 タッパーの中のものを見て感嘆の声をあげた。
「あったかいうちに食べなよ」
「うん!!」

 嬉しそうに微笑むその顔を見ていると、胸の奥が温かくなるような気がする。

「いただきます」
「どうぞ」

 青島はすみれの隣に腰掛けると嬉しそうにおでんを頬張るすみれの顔を見て微笑む。

 幸せだな。そう思う。

 彼女の嬉しそうな顔を見ているだけで、こんなにも満たされた気分になる。
 彼女が隣で笑ってくれるだけで、こんなにも嬉しくなる。

 だけど、隣にいるのに、どうしてこんなにも切ないのだろうと思う。

 それだけ、自分はこの彼女が大事なのだ。



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