踊る大捜査線

□優しさの傷
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「最近、すみれさんの様子がおかしいんですけど……」
「すみれさんが?」
 コソッと耳打ちしてくる夏美に青島は書類から顔を上げた。
「何て言うか……大人しいっていうか……」
「それはおかしいね」
「……それ、すみれさんに聞かれたら射殺されますよ?」
 それは君もね。と青島が返すと、夏美は慌てて口を覆った。
「ああ、きっと俺が最近忙しくて構ってないから不貞腐れちゃってるんだね。あとでちゃんと構っとこ」
 ニコッと微笑んで、またも書類に目を通す。
「そんな単純な問題ですか?」
「違うの?」
 書類を見ながら返す。
「……なんかすみれさんが気の毒になってきた……」
「なんで?」
 嘆息する夏美の言葉に、青島は顔を上げた。
「係長、女の人に無駄に優しいくせに女の気持ち全然わかってないですよね?」
「無駄って……」
「でもわかってないのは事実ですよ」
 夏美は畳み掛けるように言う。
「そんなことないと思うけど。君だって早く帰って旦那とラブラブしたいとか思ってるでしょ?」
「思ってません!!」
 カッと顔を赤らめた夏美に、青島はいたずらな笑みを浮かべた。
「思ってるくせに〜」
 この男はっ、すぐに話題を摩り替えようとする!! 
「係長、あまり無駄に優しいと本当に優しくしたいときにわかって貰えないですよ」
「そんなもんかねえ?」
 おどけて言う青島に、夏美の堪忍袋の緒が切れた。
「ああもう、すみれさんがかわいそうっ!! 係長なんかすみれさんにフラレちゃえばいいんだっ」
「なによ、それ?」
「もう知りませんっ!!」
「なんだってんだよ……」
 
 とにかくすみれの様子がおかしいことが気になる。
 実のところ青島も気付いてはいたのだが、あまりにも自分の忙しさにかまけてほったらかしにしていたことは否めない。
 せめてメールでもしてやればよかったと思う。

 自分のデスクで書類を書いていてもすみれが気になってふと視線をそちらに向けてしまう。

 すみれの横顔はとても綺麗だ。
 もちろんどこから見ても綺麗なのだけど、いつも隣で歩いているときに見下ろす横顔も、こうして見る横顔も、やはり誰よりも綺麗だと思う。
 でも今の彼女の横顔は何だか憂いを帯びているというか、翳りが見える。

 するとすみれが席を立った。向かうは休憩室の方だった。
 慌てて席を立ち、青島はすみれを追った。
 その様子を夏美は目で追う。見れば向かいの緒方も、和久も、向こうの席の中西も森下も、そして課長の袴田まで、同じように青島の向かった方向を見ていた。
(みんな、同じこと思ってたのか……)
 気付いていないのは本人たちばかりなのかな?
 夏美は苦笑した。



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