踊る大捜査線

□優しさの傷
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『青島君て、本気で誰かを好きになったことある?』

 彼女にこう言われたことがある。

『いきなり何?』

 少し困惑して言うと彼女は苦笑して、

『青島君、誰にも優しすぎるから、逆に誰も好きじゃないのかと思った』

 そのとき、彼女のその言葉が妙に心の刺さった。



「先輩、相変わらずですね」
 交通課の婦警に囲まれ、まんざらでもないといった顔で応対している青島を見て、真下は言った。
「真下君……じゃなくて署長」
「すみれさんにそう言われると何か変な感じですね」
「じゃあ真下君でいい?」
「……どっちでもいいですけど、表向きは署長で……」
「了解」
 敬礼の形をとって、すみれはおどけて言う。

「てか先輩、ホント相変わらず軽いですね」
「係長になったからちょっとは落ち着くと思ったんだけどね。軽いところは変わんないみたいね」
 鼻の下を伸ばしている青島を尻目にすみれは溜息を吐いた。
「いいんですか? すみれさん」
「なにが?」
「先輩あのまんまで」
 真下は青島を指差した。
「あたしの知ったこっちゃないわよ」
 そっぽを向くすみれ。
「……でも……」
「青島君は変わる気ないんでしょ。あたしには関係ない」
 すみれはきっぱりと言い放った。
「……」
「誰にでも優しいからね、青島君は……」
「ええ」
「それが彼のいいところであり、悪いところ」
「……そうですよね」
「傷つかなくてもいい人まで傷ついてる……」
「すみれさん……?」
 真下はすみれが何故そう言ったのか、その時はまだわからなかった。




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