踊る大捜査線

□As usual
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「……あの……つかぬことを伺いますが……さっきの会話……?」
 居残りの青島と当直の栗山を残し、さっさと刑事課を後にする強行犯係の面々を和久伸次郎は一人目を丸くして真っ赤になりながら追った。
「ああ、今日はあっさりと終わったね。青島&すみれ劇場」
 緒方がそう言うと、夏美が返した。
「係長切羽詰ってるから、あっさり終わらせたんでしょ」
「もうちょっと余裕のあるときは引っ張るからねえ〜『あたしには他にも愛する人がいるの』とか『俺のことは遊びだったのか!?』とか」
 盗犯係の森下も参戦する。
「突然始まるから最初はビックリしたけどね」
 夏美は初めてこの会話を目の当たりにしたときのことを思い出し、苦笑した。
「初めてあれを見た人は大体こういう反応よ。栗山君だって目まん丸にしてポカーンって」
 夏美はそのときのことを思い出してケラケラと笑った。
「今じゃ慣れちゃって、また始まったって顔してるけどね〜」
「そ、そうなんですか……」
 和久はいまだ戸惑いながら呟いた。

「青島さん、昔から書類溜めるとすみれさんに泣きついてたからなぁ」
「違う係なのに。部下の俺らに言わないところがまた素直というか」
「単にすみれさんと帰りたいだけなのよ。わかりやすいわ〜」
 和久は先輩たちの会話を呆然としながら聞いていた。

「付き合ってらっしゃるんですか? あのお二人……」
 和久の問いかけに、一同は口々に言った。
「さあ?」
「付き合ってないって言ってたけど?」
「そんなことになってたら……クソッ……」
 顔を歪める緒方に、森下は背中を叩く。
「いい加減諦めてるくせに白々しいんだよ」
 ハハハッと笑い合って前方を歩く先輩たちを、和久はやはり呆然と眺める。

「こんなの日常茶飯事よ」
 夏美はまだもわけがわからないといった顔をする和久に言った。
「そうなんですか?」
「早く慣れた方がいいわね」
「でも突然演技だなんて……始める方もついていく方も凄い阿吽の呼吸ですね」
 感心する和久。本当に突然始まって、この二人は何を言い出したのか?と、見ているこっちが恥かしくなって。
 でも課長を含め、他の係の人たちも平然としているから、ここはどうなっているんだ?と思っていたのだが……。
「あれ、ほとんど本音だもん」
 笑いながら夏美は言った。
「え?」
「素直じゃないのよね〜二人とも怖がりだから本気で言えないけど、演技で言い合ってるようなもんじゃない?」
「そう……なんですか?」
 和久はポカンと口を開けている。
「他のみんなだって気付いてると思うけど。バレてないって思ってるのは本人たちだけじゃない?」
 夏美は苦笑した。

「普段鋭いんだけどね、二人とも。こういうことになると鈍いのかしらね?」
「篠原さんは鋭そうですね」

 和久は何の悪気もないというような、どこか人の毒気を抜いてしまいそうな笑顔で言った。

 普通に聞いたら少し刺がありそうななセリフも、この青年が言うと全然嫌みに聞こえない。
 まあ元よりそんな気は微塵もないのだろうけど。
 コイツは天然だな……夏美はそう思い、苦笑した。

「そうね……伊達に結婚してないわよ」
 色恋のことは任せてよ、と言いたげな顔で。
「そっか。ご結婚されてるんですよね?」
「あの二人を見てるとね、なんだか早く旦那に会いたくなっちゃうの」
 夏美は幸せそうに笑った。


「ねえ、すみれさん」
「なあに?」
「愛してるよ」
「はいはい、わかったわよ」
 すみれはそう言って、青島の差し出す書類を受け取った。

(こんなときは素直に言えるのになぁ……)
 
 本音が他の署員にバレてるとも知らず、青島は胸中で嘆息した。


 end
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