踊る大捜査線

□Barren fight
1ページ/2ページ


「それにしても、真下が署長とはねえ」
「やっぱりここなんだって感じですよ」
 署長として湾岸署に戻ってきた真下は、青島とすみれと一緒に休憩室でコーヒーを飲みながら旧交を深めていた。
「この間、雪乃さんと電話で話したけど、何も言ってなかったわよ?」
「黙っててくれって頼んだんですよ。驚かせたくて」
 人懐っこい笑顔は少しも変わっていないと青島とすみれは思った。
「いや、十分驚いたよ。ネゴシエーターのときも驚いたけどね」
 青島がそう言うと、
「でもネゴシエーター、クビとはね」
 すみれがからかい混じりに言った。
「それを言わないで下さいよっ!!」
「こりゃ失敬」
 真下にしたら調子に乗った結果の痛い失態。あまり触れないで欲しいと思いつつ、ついついDVDを配って歩いてしまう。
 まあそれなり楽しかったしいいか。とか思ったりもしなくもないのだが……やっぱり……。

「でも、ここに戻って来れたんだしね」
 青島はそう言うと、真下は複雑な顔をした。
「それって喜んでいいんですかね?」
「戻って来れて嬉しいんでしょ?」
 すみれは綺麗に微笑みながら言った。
「まあ……そうですけど」
「ならいいじゃない?」
 そしてニッコリと笑った。
 妻も子のある真下だけど、すみれの笑顔に何だか少し胸が高鳴った。
 やっぱり……そうだ。
「……でも、お二人とも相変わらずみたいに見えるけど何となく変わりましたね?」
「そう? あたしは何にも変わってないわよ? 相変わらずヒラだし?」
「先輩が係長ってのもちょっと不安ですよね。署長としては」
「何言ってんの? 署長。俺はちゃんと事件解決したでしょ?」
 自信満々のそう言う青島だったが、あとの二人はそんな青島が一番何を仕出かすかわからないと同時に思った。
「でもレントゲン写真のミスだなんて先輩らしいというか」
 真下は青島が死ぬかも知れないと思われていた事の顛末を思い出し、苦笑する。
「それって俺のせいじゃないじゃん!!」
「日頃の行いじゃない?」
「すみれさんっ!?」
「こりゃ失敬」
「ホント相変わらずだなあ〜」
 相変わらずテンポのいい掛け合い。これを聞くと、ここに帰ってきたと実感する。

「まぁ何も変わることなんてないわよ。ホント相変わらず。イヤんなるくらい」
「……なんか含んでる?」
「別に」
 白々しくそっぽを向くすみれに青島は何か引っかかるな……と思ったり……。

 真下はそんな二人の様子に顔を綻ばせた。

「でもすみれさん、久しぶりに会いましたけど、ホント綺麗になりましたよね?」
 真下は先程すみれの笑顔を見て感じたことを素直に口に出した。
「ヤダ真下君、嬉しいこと言ってくれるじゃない!!」
 謙遜もせず、素直に喜ぶところが彼女らしいというか……そこが彼女の魅力の一つだけど、変なところで全く素直じゃない。
 言わばツンデレといったところか。
「真下、お前、雪乃さん以外にそんなこと言っちゃっていいの?」
 意地の悪そうな顔をしてそう言う青島に、すみれは間髪入れずに言った。
「ホントのこと言って何が悪いのよ?」
「自分で言う?」
 キッと睨むすみれに「こりゃ失敬」と青島は意地の悪い笑顔を浮かべた。

 先輩、またそんなことを……真下は何となく、一波乱起きそうな、そんな嫌な予感がした。

「ここの人はそんな気の利く人いませんからね。自分で言わなきゃやってらんないわよ」
 プイッと頬を膨らませるすみれは、実年齢を聞いたら誰もが驚くだろうと思うほど幼く……もとい若く見える。

「でも自分で言うなんて悲しいよ?」
 ああまた……真下は青島の発言に嘆息する。
「うるさいわねっ!!」
「ま、まあまあ二人とも……あ、すみれさん、雪乃さんに聞いたんですけど、雪乃さんと待ち合わせしてるときにナンパされたらしいじゃないですか?」
 雲行きが悪くなったことを察し、真下は慌てて話題を変えた。

「ヤダ聞いたの? もう、雪乃さんたら……」
 途端、機嫌が良くなるすみれに対し、
「何それ? 聞いてないけど」
 こちらは打って変わって機嫌が悪くなったように感じた。

 あれ? もしかして失言?

「別に青島君に言う必要ないじゃない?」
「そうだけどね……それでついて行ったの?」
 何となく青島の声のトーンが低くなったような気がした。
 真下は気のせい……じゃないな……と胸中で呟き、だんだん不安が募ってきた。

「行くわけないでしょ。雪乃さんと待ち合わせしてたんだから。でも結構いい男だったな」
 
 その瞬間、真下は青島の米神がピクリと動くのを見た気がした。

 雪乃が言うにはかなりのいい男だったらしい。
 背が高くて人当たりのいい笑顔で、どこかしら先輩に似てたって……。

「勿体無いことしたかな?って思ったわよ」

 ああすみれさん、先輩明らかに機嫌悪くなってるんですから、火に油を注ぐようなことは……ってこの話持ち出したの自分だった!!

 真下は胸中で叫ぶと、この後勃発するだろう、不毛な争いをどう止めるか思案を始めた。
 これは元・ネゴシエーターの手腕が問われる!!(まあ原因は自分だけど)

.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ