踊る大捜査線

□背中合わせ 隣り合わせ
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「俺今買いたいものとか結構あってさ」
「それ、あたしに何の関係があるのよ?」
 すみれの眉間の皺が深くなる。

「でも折角昇給したのにヒラに戻ったら給料下がっちゃうじゃない? てことは誰かさんにたかられても奢る余裕が無くなるよね」
「たかるって失礼ね」
「こりゃ失敬。てか困らない?」
「……それは困るわ……」
 真顔で唸るすみれに、青島は苦笑する。
「でしょ? それにね……」
 すみれの顔を覗き込み、

「将来……食費がかかっちゃいそうだからね。その為にも今のうちからプールしておかないとね」
 
 誰かさんが食いしん坊だからね。
 
「……青島君、老後のことまで考えてるんだ?」
「へ?」
 青島は間抜けな声を出した。

 今の……伝わってない?

「人は見かけによらないものね〜あたしなんて目の前の美味しいものにしか興味ないわよ」
「え? え?」
「そうよねえ〜あたしもちゃんと考えなきゃね。おばあちゃんになっても美味しいもの食べたいもの」
 でも上司が出世しないからな〜、などと言うすみれの姿を見て、青島は呆気にとられる。
 
 この人にはストレートに言わないと伝わらないのかな……?

 肩を落として大きく溜息を吐こうとしたとき、すみれは口を開いた。

「でももし、あたしが出世して盗犯係の係長になったらさ、今度は隣同士になるのね」
「……え……?」
「今までは背中合わせだったけど、隣同士ってのも一風変わっていいかもね?」
 ちょっと離れてるけどね。
 そう綺麗に笑うすみれに、青島は何度心臓を掴まれてきたことだろう。

 今まではお互いに背中を守り合っているような関係だったけど、これからは隣同士で並んで歩く存在。
 背中合わせより隣り合って一緒の歩幅で、手を繋いで、共に生きていく存在に。

 そんな風になれたら……二人は同時にそう思った。
 
「隣り合わせかぁ〜なんかいいね」
「でしょ?」
「すみれさん」
「ん?」
「早く出世してね」
「それは係長に言って」


 隣り合わせ−。

 
 その言葉に先程までの寂しさが何だか和らいだ気がした。



 ねえ、すみれさん。

 ねえ、青島君。

 
 ずっと、隣にいてくれる?


 end
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