踊る大捜査線
□Love's Bargaining
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「だからねっ……」
「係長ーっ!!」
青島が何かを言おうとすると、丁度青島を呼ぶ夏美の声で遮られた。
「え? あ、はい」
間の抜けた声で返事する青島に、夏美は「課長が呼んでます」とだけ言って、すみれに申し訳なさそうな顔を向けて会釈して慌てて立ち去った。
すみれはそんな夏美の様子に苦笑する。
「青島君」
「え?」
完全にタイミングを失い、呆然とする青島にすみれは声をかけた。
「行かなくていいの?」
「あ、はい、行きます」
ばつの悪そうに頭を掻きながら青島は立ち上がると、休憩室の入口で立ち止まった。
「どうしたの?」
「今日早く終わったら、ご飯食べに行こう?」
振り返り、そう言うと、
「奢り?」
すかさずこう返ってきた。青島は苦笑し、
「涙のお詫び」
そう言うと、
「やった。キャビアよりも高いものね」
嬉々としてすみれは言った。
「それは……勘弁して下さい……」
キャビアよりも高いものを食べる金の持ち合わせなんかあるはずもない。
「ま、いいわよ。健康管理する人に悪いし」
「だからーっ……」
「青島くーんっ!!」
刑事課から袴田の青島を呼ぶ声に遮られた。
タイミング悪すぎ……。青島はガックリと肩を落とした。
「ほら、呼んでるわよ」
そんな青島にすみれは笑いを押し殺しながら声をかけた。
青島は忌々しそうに舌打ちすると、「約束だからね」とすみれに言って頭を掻きながら大股で歩いて行った。
「意地悪……しすぎたかな?」
すみれは遠ざかる青島の背中を見つめて小さく、綺麗に笑った。
今日の食事の後、続きを聞かせて貰えるのかしら?
袴田との話が済み、自分の席に戻ってきた青島に、夏美はコッソリと耳打ちした。
「もしかして……タイミング悪すぎました?」
「……悪すぎ。全く、課長もつまんない用事で邪魔してくれてさ」
いつもなら否定しそうなところだけど……。
忌々しそうに呟く青島の姿。
(……こりゃ、明日には何かが変わってるかもね)
夏美は隣の人と、こちらに背中を向けて座っている人を順番に見て、誰にもわからないようにコッソリと笑った。
end