踊る大捜査線

□ Happy Birthday 〜Dec.13〜
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 とある商店街のとある唐揚げ専門店。

「なあ、すみれ」
「なあに?俊ちゃん」
「何か忘れてない?」
「何を?」
「ほら、重要なこと」
「回覧板ならまわしたよ」
「それは重要だよな……じゃなくて」
「仕入れの電話ならしたわよ。あ、手羽先多めに頼んどいたけど」
「さすがすみれ!! 最近手羽先よく出るんだよなあ……じゃなくて」
「あ、そうそう!! 思い出した!!」
「なになにっ!?」
「いつもの学校のお弁当の注文、明日は調理実習があるからいつもより一つ少なくして下さいって。うっかり一つ余分に作るところだったわよ」
「あ、そう、調理実習かあ〜俺もさあ、昔は女子が作ったクッキーとか貰ったなあ〜……じゃなくて」
「へえ〜俊ちゃんモテたんだ?そう言えば職場の女の子からいろいろ貰ってたよね?」
「いや、その、それは……いろいろ相談に乗ったお礼というか……じゃなくて」
「へえ〜?相談に乗ってたんだ?一体どんな相談に乗ってたのかしら?俊ちゃん優しいから親身になってくれるもんね?」
「そんなことは……ない……けど……じゃなくて……」
「そんなことなくないでしょ?無駄に優しいもんねえ?一体どれだけの女の子を騙してきたのかしら?」
「騙してきたってっ!? そう言うすみれだって上目遣いで男に食いモンたかってきたじゃねえのかっ!?」
「はあっ!? そんなことしたことないわよっ!! 上目遣いなんてしたことないですぅっ!!」
「俺はされてたけどねっ!!」
「じゃあ俊ちゃんにだけなんじゃないの?」
「あ……そっか……そうだよな……俺だけか……そうかそうか……いやいや、そうじゃなくて……」
「なによ?あたしが俊ちゃん以外の人に上目遣いを使ったところでも見たの?」
「いやいや、それはもういいよ。すみれは俺以外にはしてない。うん、してないしてない…………じゃなくてっ!!」
「もう……なによ鬱陶しい」
「冷たいね……愛しの旦那さまがこんなにも訴えてるのによ……」
「誰が愛しの旦那さまよ?」
「目の前の男前」
「……鏡見てから言いなさいよ」
「ひどっ!! オメエ、亭主に向かってよくもそんな……」
「そういうセリフは油売ってないでちゃんと稼いでから言ってくれる?」
「……」
「……はいはい、俊ちゃんの言いたいことくらいわかってるよ」
「なになに!?」
「お誕生日おめでとう」
「ありがとう、すみれ」
「そんなにお祝いして欲しかったんだ?」
「やっぱさ……寂しいじゃねえか?忘れられたらさ」
「忘れたくても忘れられないわよ。一日中、用もないのに今日の日付言ってんだもん。鬱陶しいったらありゃしない」
「鬱陶しいって……気付いてんなら早く言ってくれよ」
「おもしろかったし」
「ちょっと」
「こりゃ失敬」
「まったく……」
「で?何が欲しい?あ、高いものはダメよ」
「高いもの……多分……金なんてどれだけ出しても買えないけど、すみれにしか用意できないものだよ」
「?何よそれ?」
「わかんない?」
「わかんない」
「すみれ。オメエ自身だよ」
「っ!?」
「なーんちゃって」
「…………射殺する」
「ひっ!? ゴメンッちょっとした冗談じゃねえかっ!?」
「誕生日を命日にしてやる」
「やめろって……凶器はやめようね?ほら、それじゃ射殺じゃなくて刺殺……じゃなくて……悪かったって!! 俺が悪かったっ!!」
「覚悟しな」
「ゴメンってばーっ!!」


「なんだい。またやってんのかい?」
「……いつものことです……」
「夫婦喧嘩は犬も食わねえってか?まあ喧嘩するほど仲がいいってね。でもアンタも苦労するねえ。毎日新婚にあてられっぱなしじゃ」
「……慣れましたよ。前からあんな感じでしたから」
「ホントに仲がいいんだねえ、あの二人」
「阿吽の呼吸ってヤツですしね。まあ長年付き合ってますからねえ」
「なのに新婚かい?旦那は今まで何をやってたんだか」
「まったくです」

 夫婦喧嘩を尻目に、この店の店員と常連客は盛大な溜息を吐いた。


 end
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