踊る大捜査線
□White Christmas
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こんな穏やかなクリスマスは滅多にないだろう。
すみれが撃たれて約一ヶ月程が経った。
青島は息を切らせながらすみれの入院している病院へと走った。
すみれの見舞いに行くことはほぼ日課と化していることではあるが、今日は特に気持ちが急いている。
街中がイルミネーションでキラキラとしていて、まるでそこに集う人々と同じように浮かれているように思える。
時計を見れば面会時間終了30分前。
あと5分くらいで着くが、それでも一緒にいられる時間は僅か。
もっと早く走りたいけれど、手に持っている箱の中身のことを考えればこの早さが精一杯だ。
青島は白い息を吐きながらとにかく急ぐ。
今日は奇跡的に当直ではなかったけれど、署を出たのが思いのほか遅くなってしまった。
焦りが顔に出ていたのだろうか、雪乃は『もう帰っていいですよ』と言ってくれたのだが、それでも帰るのが忍びなく、コッソリ係長の顔を窺うと、苦笑して手で追い払うような身振りをしたので、申し訳ないと思いながらも署を飛び出した。
今日はクリスマス・イブ。
青島たちの仕事にはクリスマスもイブも存在しないといった方がいいのかも知れないが、それでも一緒に過ごしたいと思う人がいると余計にその思いは募ってしまうもので。
いつもならば自分の背中越しにその存在を感じることが出来るのに、今はその存在がそこにはいない。
ごく最近気付いた思いではあるけれど、その存在が今までもすごく心地よかったことには変わりなく。
ただ、この手から零れ落ちてしまうと思ったそのとき、情けない話、今更のように自分の気持ちを自覚した。
青島はこの思いが単なる『つり橋効果』なのかも知れないと思ったこともあった。
しかし、この思いは『つり橋効果』なんかではなく、今までもそうだったのにあまりの心地よさに気付かない振りをしていただけなのだと思い知らされた気がした。
その存在の元へ早く行きたいという思いが刑事課の中にも伝わっているのだろうか。事件が立て込んでいないときは気を使って融通してくれることもある。
ある意味すみれのお見舞い係と化している部分もあったりする。
しかし署のほとんどが青島がすみれが撃たれたことによって心に大きな傷を負ったことはわかっていた。
平気そうな態度をしていても、テレビで献血を訴えかけてた青島の悲痛な叫びが青島の心情を表していた。
青島の心の傷を癒せるのはすみれしかいないと、誰もが無意識に感じ取っていた。
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