踊る大捜査線

□Gentle eyes
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「青島っ、青島じゃないのかっ!?」
 その日、非番だった青島は何気なくぶらついていると突然声をかけられ、振り返る。
「あれ? 木下?」
「久しぶりだなっ!!」
 その男、木下は青島に駆け寄ると、背中をバンバン叩いた。
「大学卒業以来だから……もう10年以上になんのか」
「お前は変わんねえなぁ」
 青島と木下は笑い合った。
「で、何してんの?」
「俺は暇だったからぶらついてた。お前は?」
「俺はカミさんに頼まれたもん買いに」
 そう言って買い物袋を見せる。
「あ……今日は土曜か……」
 世の中は休みなんだよな……。青島は胸中で呟く。
「? 暇ならさ、茶でも飲んで話しねえ?」
 青島は木下の申し出に頷き、二人はすぐ傍にあった店に入った。

「お前、今も大学出てすぐの会社行ってんの?」
「おお、今は係長だよ。お前もあの会社まだ行ってんのか?」
「いや、俺今おまわりさん」
 青島の発言に木下は心底驚いた。
「マジでっ!? 脱サラしたの?」
「おお、刑事だぜ」
「うわっ、生刑事初めて見た!! どこの警察署?」
「湾岸署」
 青島は運ばれてきたコーヒーに口を付けながら言った。

「あ、じゃあやっぱアレお前かっ!!」
「へ?」
「前にお台場で見かけたの、やっぱお前だったんだ」
「そうなの?」
「女の人と歩いてたけど、奥さん?」
 青島と一緒に歩いていた女性を思い出す。小柄で遠目に見ても結構な美人だった。
「俺、結婚してないよ?」
 キョトンとして答える青島。
「そうなのか? じゃあ彼女?」
「彼女作ってる暇もないくらい忙しいって。あ、すみれさんかな?」
「誰?」
「同僚。ちっちゃくて色の白い」
「そうそう!! その人!!……って彼女も刑事なのか?」
「うん。男なんて軽く投げ飛ばしちゃう」
 あの美人が……小さくて、こっちが守ってやらなきゃって思えそうな人が?木下は呆然とした。

「あんなに綺麗なのに? とてもそんな風に見えなかったけど……」
「それ、本人に言ったらめちゃくちゃ喜ぶよ」
 そう笑う青島の顔が、何だかとても嬉しそうに見える。
「いいなぁ……あんな美人と一緒に働いてるってさ」
 本当に羨ましいという顔をして木下は言った。
「てかお前、奥さんとはどうやって知り合ったの?」
 青島はニタニタした顔で聞いた。
 木下はこんなところは変わってないな、と胸中で苦笑した。
「うちのカミさんか? 同じ会社だったんだ」
 社内結婚した妻は社内でも1、2を争う人気だった。その『すみれさん』とまではいかないにしろそこそこ美人で木下も鼻が高かったけれど。
「そうなの?社内恋愛ってどうなのさ?」
「興味あんの?」
「まあ、どんなかな……って」
 少し顔を赤らめながら鼻の頭を掻く青島が何となく照れているようにも見えて。
「付き合ってるときはちょっと気を使ったっていうか……でもバレちまったらまわりも公認だしさ」
「でもさ、別れたらどうしよって思わなかった?」
 そう訊ねる青島の目が、先程とは打って変わって真剣だった。
 
 コイツ、社内……いや署内恋愛してるのか……?

 木下は何となくそう直感した。


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