踊る大捜査線

□約束
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「……じゃあ、いつ隙あった?」
 聞いてみたかった。すみれにいつそんなときがあったのか。
 今後の参考に……ってわけじゃないけど、何となく聞きたくなった。

「……青島君が刺されたとき……かな」
 その顔は微笑んでいるけど少し悲しげに見えた。
「……俺のとき?」

 青島の胸がドクンと波打つ。

 あのとき、たくさんの人を傷付けた。室井も、湾岸署のみんなも……。
 でも、一番傷付けたのはすみれだということはわかっている。

「うん。あのときのあたし、隙だらけだったな。誰かに優しくされてたら……どうなってたかな? 室井さんとか」
「……なんでそこに室井さん?」
 何となくムッとする。具体例を挙げられるとやっぱり面白くない。それが室井なら尚の事。
 それは自分のせいなのに棚に上げていることはわかってはいるのだけど……。
「何となく言ってみただけよ」
「ホントに?」
「疑り深いわねえ」
 すみれはその室井のように眉間に皺を寄せる。
「だってキャリアだし」
「そうよね、キャリアだもんね。でも……」
 すみれは青島の顔を覗き込んで、
「精神年齢、低くないでしょ?」
 そう言って笑った。
「そだね」
 青島もその笑顔につられて笑う。
「ま、そのへんの男じゃ、このあたしを落とせないわよ」
「やっぱ相変わらず手強いね」
 自信満々にそう言うすみれに、青島は苦笑した。
「あたしは変わんないわよ。撃たれたからって何も変わらない」
「……でもさ、ちょっとは無茶やめてね。俺の心臓がもたない」
 その顔には翳りが見える。

 相当堪えた。あのときのことを考えるだけで、今でも心臓が痛む思いだ。

「青島君……」
「……って俺も人の事言えないか」
 青島は自嘲気味な笑顔を見せた。
「……そうね。あのときはあたしの心臓壊れるかと思った」
 俯き、小声ですみれは言った。

「ごめんね? その節は」
 そんなすみれの顔を覗き込む。
「こちらこそ。ご心配おかけしました」
 するとすみれは顔を上げて、そのまま深々と頭を下げて言った。

 その瞬間、二人同時にプッと噴出す。

「何かお互い今更ね」
「ホント」
 
 本当はこうして笑い合えることが嬉しい。本当はすごく傷ついているけど、それでもお互いに傍にいれることが何よりも安心できて。

「……そう言えば……」
「うん」
「あたしたちってさ、お互い目の前で血流しちゃったね」
「……ホントだね」
 今更のように確認し合う。
「怖かったね」
「……うん。怖かった」
「……もう、あんなの嫌だね」
「……絶対に嫌だね」
 
 すみれは青島の顔を見据えると、
「生きててくれてありがとね。青島君」
 そう言って、綺麗に微笑んだ。
「すみれさんも、ありがとね」

 ありがとう、生きててくれて。それだけで、本当に嬉しいんだ。


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