とくべつ
□Medium Story 1
1ページ/5ページ
ぱっと明るくなるステージ。
ライトで照らされた二つの人影。
瞬間、客席から歓声が上がる。
小さなライブハウス内。
薄暗い中で蠢く観衆。
揺れる、色とりどりのペンライト。
こんな異様な景色を、こんな場所から拝むことになろうとは、夢にも思わなかった。
この、明るく照らされたステージの上から。
こんなフリフリの衣装を着て。
隣に立っているピンクの衣装の彼女がマイクを構える。
それに習って、マイクを胸の辺りまで持ち上げる。
「1、2、3」と、彼女は上下に小刻みに揺れながら、小声でカウントをとる。
ひとつ、高く響く音。
曲の始まりの音。
「いっくよぉーーー!」
その声に応えるように、会場が沸いた。
もう、後戻りはできない。
引きつる顔を無理矢理笑みに変える。
息を吸って、歌い出す。
♪ドキドキ
ドキドキしてるよ。
今まさにドキドキだよ。
♪目覚ましが鳴って 遅刻しそうな朝だ
あぁ、もう
どうにでもなれ。
七里(しちり)マリ、19歳、現役大学生。
今、アイドルやってます。
第1話 異世界との遭遇
大学生活2年目の春。
ごく普通の大学生の私が、何故こんな状況に陥っているのか。
今日の朝はいつもと変わらない、気持ちのいい目覚めだった。
朝食のトーストを食べ、身支度を整え余裕を持って家を出た。
……あ、違うな。
今日は朝から寝坊したんだった。
その辺にあった服を急いで着て、寝癖でボサボサの髪は諦めた。
髪短いから中々直らないし。
パンを焼く時間すら無くて、食パンをそのままくわえて家を出た。