とくべつ

□『魚』、『空』、『飴』
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「魚がさぁ」
「うん?」
「空を飛んだらどうなるかな」

君があまりにも突飛な事を言うものだから
君がくれた飴玉の袋
思わず取り落としそうになった

「ほら、鱗に光が反射して、ね」

よく晴れた昼下がり
校舎の中庭にある小さな池の前に
僕らは並んで座ってる

「きっと綺麗だと思うの」

そう言って
君は手に持っていた飴玉を空にかざす

透明な袋に包まれた
丸い小さな空色の飴玉

僕の手にもひとつあるそれを
君は楽しそうに眺めるんだ

「あ、“飛ぶ”じゃなくて“泳ぐ”か」

いや、そういう事じゃなくて、と
ようやく思考が追いついた僕の事なんて
君はどこ吹く風

池の中には色鮮やかな鯉が数匹
君の話なんてどこ吹く風

かざした飴玉をうっとり眺める君に倣って
僕も飴玉を空にかざす

そうすれば

君と同じモノが見える気がして

けれども何も見えなくて

目の前には
小さな空がぽつんとあるだけ

「あ、でも」

急に君の表情が真剣になった
何事かと身構えた

「あんまり太陽に近いと、焼魚になっちゃうかも」

思わず、吹いた

「あの、太陽に近づき過ぎて堕ちちゃった。。。」
「イカロス?」
「そう、それ!」


ギリシャ神話の青年イカロス
彼の蝋で固めた翼は
太陽に近づき過ぎたために溶けてしまった
翼をもがれ、憐れ海へ堕ちた儚き命

と、焼魚

陽射しの強い日はさぞかし香ばしい匂いがするんだろうね

「それは困。。。いや、美味しいかも?」

隣で呟く君をよそに
僕はもう一度、空にかざした飴玉をみる

切り取られ、閉じ込められた小さな空

袋を開ければ

今にもあの空に溶けてしまいそう
「ねぇ」

そんな事をぼんやり考えていると
君はいつの間にかショボくれた顔
あぁ、またついていけてない

「魚さん達、空に憧れはしないのかな」

当然、僕には答えられない

すると君はおもむろに飴の小袋を破り

開放された 小さな空の欠片

ぽちゃん、って

池に落としてしまった

「ちょっ、鯉が食べたら」
「大丈夫だよ」

だって

ほら、ね

「彼らは空になんて興味ないんだ」

触れられも、見向きもされず

空は、おちていく

ただ、沈んでいく

君のココロとともに

君だけの空が消えてゆく

だから僕は袋を開けて
中身を取り出し空にかざした

小さな空の欠片

そっと指を離して、口の中へ

甘い甘い味がした

君だけの空

「おいひいよ?」

君に微笑みかけると
戸惑いながら笑ってくれた



小さな空の欠片

全て溶けてしまった後なら

ねぇ、きっと

僕にも

君と同じ“空”が見えるかな



おわり 


 
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