HQ!!夢

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 体育館全体がただならぬ空気に包まれた。
どちらのコートも試合が中断され、皆の視線が及川の方へ注がれている。
監督とコーチが及川の足を見ながら、何やら言葉を交わしている。
「ケガしちゃったの・・・?」
 大沢は不安げに呟いた。
「スパイクレシーブで右足を痛めたみたいですね・・・」
「大丈夫かな・・・」
 コーチは及川に肩を貸して、ゆっくりと歩いて体育館の隅へ移動した。
岩泉もついていこうとしたが、監督に引き止められた。
試合に出ていなかった上級生は、自発的に応急処置を手伝う。
及川の代わりの上級生がコートに入ると、監督の一声で試合は再開された。
「立花さんも心配でしょ、行ってきな」
 大沢は真剣な表情だ。
「えっ、でも・・・」
「こっちは僕がやっとくから。ほら早く」
「・・・ありがとうございます」
 大沢に頭を下げてから、立花は走りだした。


 1階へ降りて体育館に入ると、壁にもたれて座っている及川の方へ直行した。
他の上級生は既に試合の方に戻っていて、コーチは及川の傍で何やら電話をしている。
「あっ、美咲ちゃん。わざわざ来てくれたんだね」
 及川の右膝にはテーピングが施されていて、自分で氷嚢をあてがっている。
「膝ですか・・・」
「歩けるし、大したことないよ」
「甘く見ちゃダメですよ!とりあえず寝転がった方がいいです」
 立花は近くにあったジャージを畳んで床に置き、及川の背中を支えながらゆっくりと寝かせて、ジャージの上に頭を乗せた。
右足は軽く曲げたままで、氷嚢は立花が持って膝にあてがった。
「あ・・・ありがと」
「お安いご用です」
 少し呆然としている及川に、立花は微笑みかけた。
「及川、お袋さんが車で迎えに来るそうだ」
 言いながらコーチはケータイをポケットにしまった。
「誰も彼も心配症だなぁ」
「お前こそもう少し自分の体を労ってやれ。軽い捻挫とは思うが、無理すると悪化するぞ。
お袋さんには学校に到着次第連絡するよう頼んであるから、その時は俺が車まで連れてってやる」
「はーい、お世話になります」
「立花、それまでついててやってくれるか」
「分かりました」
 コーチはコート際へ駆けていき、横になった及川と傍で座る立花が取り残された。



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