HQ!!夢

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 火曜日の放課後。
烏野との練習試合は青城の体育館でやることになっていて、青城は到着を待ちながら練習を行っている。
例のごとく立花は大沢と一緒に、制服姿で新聞部の腕章をつけている。
ただ今は、烏野に取材の挨拶をするために、監督にくっついて玄関口で待っている。
「立花さん・・・なんだか顔色良くないけど大丈夫?」
 ボーっとしていた立花の顔を、大沢は不安げに覗きこむ。
「ちょっと寝不足で・・・」
 昨晩は床につきながら考え事ばかりしてしまってよく眠れなかった。
影山との再会はもちろん、及川の足のことも気になって仕方がなかった。
 その及川は一旦部活に顔を見せてから、すぐに病院へ向かった。
「もしかして原稿書いてたの?確かに締切は金曜日だけど、あまり根を詰めすぎないでね。今日のことも書くわけだし!」
 大沢の言うとおり、慣れない原稿の執筆作業にも苦戦していた。
「・・・はい、大丈夫です!」
 考えすぎても仕方がない。
前向きな姿勢で臨もうと、立花は気を取り直した。

 予定の時間より少し遅れて烏野バレー部の一行が到着したらしく、顧問と主将が先に現れた。
気の弱そうな眼鏡の教師が、駆けてくるなり頭を下げた。
大人2人が挨拶を済ませると、監督から新聞部の2人のことを説明し始める。
大沢と立花も自ら名乗ってから、今日の試合を取材してもよいか尋ねた。
「ええ、構いませんよ!部員のみんなにも伝えておいた方がいいですね。
澤村くん、連れてきてもらうついでにお願いしてもいいですか?」
「はい!分かりました」
 主将の澤村はハキハキと返事をして、また外へ出ていった。

 挨拶を終えた2人は、いつもの観覧スペースへ上がった。
間もなく烏野のメンバーが登場し、声を揃えて挨拶をしてから中へ入ってきた。
立花は無意識のうちに影山の姿を探す。
見慣れない黒いジャージの集団の中であってもすぐに分かった。
ストレートの黒髪と鋭い眼光が相変わらずだ。
 その傍らには、明るい髪色の小柄の男子――
中学最後の大会の初戦で戦った、あのすばしっこい子だとすぐに分かった。
まさか影山と同じ学校、同じチームになっていたとは思ってもみなかった。
「あれー?あのちっちゃい子、出てっちゃったね。トイレかな?」
 自分も負けず劣らず小さいだろうと言いたい衝動を抑えて、立花は「ですかねぇ」と生返事をした。


 大きな挨拶の声が響き渡るとともに、青城と烏野の練習試合が始まった。
5番のゼッケンを着た烏野の小柄の男子は、開幕早々レシーブで他の人のところまで飛び出してしまった。
その後も彼はおかしなプレーを繰り返した。
「んー?5番の子どうしちゃったのかなぁ。緊張してるだけ?」
「そのように見えますけど・・・」
 影山が隙あれば5番の男子に掴みかかっているが、一向にプレーは改善されないまま青城のセットポイントまで来た。
ここに来て、青城のタッチネットで久しぶりに烏野の点が動いた。
そして烏野側のサーブとなって順番が回ってきたのが――
「あちゃー・・・あの子完全に固まっちゃってるよ」
 対戦相手にもかかわらず心配になるくらい、5番の男子はボールを持ったまま硬直していた。
無情にも笛の音が鳴り響き、彼はぎこちなくボールを上げ、腕を振り下ろす。

 バチコーン

 嫌な音が体育館に響き、ボールが床をはねた。
ネット前で構えていた影山は頭を垂れたまま、不穏な空気を醸し出している。
チームメイトの2人が笑う一方で、主将は影山を宥めようと必死になっている。
影山はゆらりと身体の向きを変え、5番の方へゆっくりと歩み寄っていく。
壁際まで追い詰めると、禍々しい空気を漂わせながら、先ほどボールが当たった自らの後頭部を何度も平手で叩く。
そしてコートの方を指差し――
「とっとと通常運転に戻れ!バカヤローッ!!」

「ケンカ・・・?にしては穏やかだったような・・・?」
 大沢の言うとおり、ボールをぶつけられても殴り返すわけでもなく、言葉で捲し立てるわけでもないようだった。
以前の影山なら怒りを露わにして5番の彼を責め、ピリピリとした空気になっていたに違いない。
だが目の前の彼らは、緊張どころか先程よりもリラックスした雰囲気で、第2セットに臨もうとしている。
「影山くん・・・」
 もしや彼は――


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