HQ!!夢

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 あいつが俺の目の前に現れたのは、俺が中3の時。
小学校を出たばかりでガキにしか見えない二つ下の後輩を、俺は心底恐れていた。
あいつは、才能の塊と呼ぶに相応しかった。
それだけじゃない、あいつにあって俺にないもの――


 北川第一中学校男子バレー部。
宮城県内でも有名な強豪校。
「「お疲れ様でしたー!!」」
 練習が終わり、部員たちはそれぞれ帰る支度を始める。
「影山くん!明日の英語の小テスト、半分取れないと居残りになっちゃうよ。大丈夫?」
 男子ばかりの中で際立つ女子の声。
「げっ、マジかよ…」
 バツの悪そうな顔で応える目付きの鋭い少年は、まだ声変わりしきっていない。
「授業中寝てばかりだもんねー」
「だっ、て…先生が何言ってんのか分かんねーんだから、眠くもなるだろ…!」
「しょうがないなぁ〜。同じクラス&部活のよしみでノート貸してあげるから、ちゃんと明日も部活来るんだよ!」
 差し出されたノートを、影山は欲しかったおもちゃを貰った子供のように嬉しそうに受け取った。
「マジでっ!?サンキュー、立花!」
「うん、じゃあさっさと帰ろ〜」
 2人は当たり前のように連れ添って歩き出す。

「あっ、及川先輩!お疲れ様です!」
 茶髪で顔立ちの整った上級生の前で立花は足を止め、目を輝かせながらお辞儀をした。
「美咲ちゃんお疲れ〜。また明日ね」
 及川はお得意の爽やかな笑顔で手を振った。
「お疲れ様です」
 影山も挨拶をしたが、及川は睨みつけるように一瞥だけして去っていった。
「影山くんってやっぱり及川先輩に嫌われてるよね」
「そんなストレートに言うなよ…一応気にしてんだからよ」
「影山くんも先輩と同じセッター志望だから、ライバルだもんね」
「だからってあそこまで態度悪くされるとな…先輩相手に突っ込んだことは言いづらいし…。
そういや立花は及川さんが好きで入部したんだろ?どこがいいんだよ」
「好きっていうか、憧れてるだけだよ。
確かに入部したての頃はそういう気持ちもあったけど…ほら、先輩には彼女がいるでしょ?」
「でも取っ替え引っ替えしてるって噂だろ。立花にも望みあるんじゃね?」
「私なんかが先輩と付き合ってるなんて想像できないし、もっと他の人の方がお似合いだと思うんだ〜。
だから先輩には憧れるけど、私は私の世界で生きていく、みたいなつもりだよ」
「な〜んか納得いかねぇなー」
「部活自体もすぐ好きになったし、私はこれで充分楽しいし満足だよ」
 無垢に笑う立花を見て、影山はそれ以上突っ込む気を無くしてしまった。



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