HQ!!夢

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「はーあ、せっかく飛雄ちゃんと戦えるって時にこれだよ」
 及川は仰向けのまま、頭の下で腕を組んだ。
「きっとまた機会はありますよ」
 励ましの言葉をかけるが、語気にあまり元気はない。
「それもそうだけどさー。火曜日どうしても出たければ、当日病院行って太鼓判押してもらってから来いって言われちゃった。どうせもう今日明日は閉まってるしね」
「本当に無理はしないでくださいね」
 立花が苦笑して押し黙るのを見て、及川は重々しく口を開く。
「美咲ちゃん・・・俺言ったよね、もう飛雄ちゃんのことで苦しまなくていいって」
「・・・はい、最後の大会の時に・・・」
「2人の間に何があったのかは知らないけど、飛雄ちゃんがああなったのは最終的に自分自身の責任のはずだよ。
美咲ちゃんがいつまでも引きずる必要はない」
「・・・影山くんは、本当は分かってるはずなんです!誰かがきっかけさえ作れば・・・」

「その誰かは美咲ちゃんじゃないってことでしょ」

 及川の厳しい言葉に、立花は泣きそうな顔を見せてから俯いた。
立花自身の膝の上で強く握りしめられた拳に、及川はそっと手を重ねた。
「あのさ・・・中学の時の、その・・・怖い思いさせちゃった時のことなんだけど・・・」
立花は驚きながらも、言いにくそうにしている及川の顔を見た。
「今更かもしれないけれど、本当にごめん」
 立花の手から徐々に力が抜けていくのが及川にも分かった。
「あの時のことは・・・正直今でも信じられなくて・・・」
「・・・俺さ、今でも飛雄ちゃんのことは嫌いだけど、あの時は本当に憎んですらいたような、そんな気持ちだったんだ。
あいつが幸せそうに笑ってるのを見るだけでも、心の中に嫌ぁ〜な感情が渦巻くようになって・・・そういう時はいつも、飛雄の隣に君がいた」
 立花の手をぎゅっと握って、及川は悲しそうな笑顔を見せた。
「それであんなことを・・・」
「君と飛雄の間に距離を生んだきっかけは紛れも無く俺だ。もしかしたらそれは、最終的に飛雄が”王様”になったのにも影響したのかもしれない。
・・・そのことで美咲ちゃんはツラい思いをしてしまった・・・だからこそ俺が、美咲ちゃんを解放してあげたいんだ」
 立花を見上げる及川の眼差しは真剣だ。
少しの間見つめ合ってから、立花は落ち着いた調子で口を開く。

「・・・もう、誰のせいとかそういうことじゃないんですよ、きっと。
誰かが誰かを心配して、想ってる。それって大切な気持ちだと思います」

 立花は微笑むが、及川は複雑な表情を見せる。
「もちろん私は先輩のことも心配です、足のことも含めて。
でもそれで悲観的になってばかりだと、今度は先輩みたいに私のことを心配してくれてる人が悲しい気持ちになってしまうんですよね・・・」
 力の抜けた及川の手を、立花は軽く握りしめた。
「火曜日、影山くんとちゃんと話します。それできっと前に進めるはずです」
 確証はなくともきっとそうだと信じて、立花は笑う。
「・・・俺の足もきっと大丈夫だって思う?」
 今まで足のことは平気そうにしていたのに、突然弱音を吐かれて少し驚いた。
「もちろんです!ちゃんと安静にして、腫れが引くまで冷やしてれば良くなりますよ」
 立花の素直な笑顔を見て、及川も安心したように微笑んだ。
「ありがとう。・・・でもそれ、もう氷溶けちゃってない?」
「あっ・・・新しい氷入れてきます!」
 慌ただしく駆けていく立花の背中を、及川はただじっと見送った。



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