小説

□Happy Birthday
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苛々する…

三蔵は短くなった煙草を、灰皿に捻り潰した

ここ数日、サルの様がおかしい

いや、おかしいと言う表現は、適切では無いだろう
騒ぎは起こさないし、構ってくれと喚ききもしない

つまり、とてもおとなしくしているのだ

今日は、何がめでたいのか、当の本人には全く理解出来ないが、三蔵の誕生日である
その為、行事が行われるとあって、数日前から忙しかった

普段なら、忙しい時に限って、騒ぎたてる悟空が、夕食の時も少し話しただけで、ちゃんと自分の寝台に入り、近づいて来る事も無い
少しでも、そういった素振りをみせれば、ハリセンで叩けるのに…三蔵は思っていた
つまりは、三蔵はストレスの発散が出来ないのだ

「ちっ」

苛立ちを紛らわす為に、もう1本煙草を取り出すと口にくわえたその時

コンコン

部屋がノックされ、聞きたくもない僧の声がした

「三蔵様お時間です」

「…わかった」

火をつける事が、叶わなかった煙草をケースに戻すと、三蔵は立ちあがった

「終わったらシメル…」

三蔵は凶悪な人相で呟くと、部屋を後にした











聞きたくもない、お世辞をこれでもかと聞かされ、三蔵が自室に戻ってきたのは、日付が変わってからだった

悟空は、寝てしまっているのだろう、部屋は静寂に包まれていた

「…ふん」

寝ている悟空を、意味もなく叩き起こすのも憚られ、三蔵は苛立ちに鼻を鳴らした

疲労と機嫌が底辺に達してはいたが三蔵は、無意識に悟空の馬鹿面を見ずにはいられず、彼の寝室の扉を開いた

「……何処にいきやがった?」

てっきり、寝台で寝ているとばかり思っていたのに、悟空の姿は其処には無かった

「まさか…」

そう言いながら三蔵は、自分の寝室の扉を開けた

扉を開けた瞬間、フワリと花の香りがした
人工的な香りではなく、花そのものの自然な香りだった

視線を寝台に向けると、案の定規則正しい寝息をたてながら、丸くなって悟空が寝ていた

近づいてみると、寝台の横にコップが置かれ、一枝の梅が生けてある

こんな時期に、梅の花が咲く事は珍しい
というか、あり得ないだろう



「んっ…さんぞ」

寝惚けた様な声が、悟空から発せられた
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