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□放課後の遊戯
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2011.2.6発行/P16
放課後、土方は約束通り進路指導の資料と指導室の鍵を手に、生徒指導室に向かった。指導室は普段施錠しており、必要に応じて使用する教師が開錠することになっているのだ。
「遅いよ、先生」
指導室の前に、既に沖田がドアに寄り掛かるようにして立って待っていた。
「何だ、珍しいな、おまえのが早いなんて」
土方は眉を上げて沖田を見下ろした。それに沖田が肩を竦めて答えた。
「別に? 僕だって遅刻ばっかりしてるわけじゃないですよ」
「いや、遅刻ばかりだろうが、沖田は」
土方はドアを開錠すると、先に中へ入った。続いて入って来た沖田が、ご丁寧に内鍵を施錠する。
資料を机に置きながら、土方が不思議そうに眉を寄せた。
「おい沖田、何でわざわざ鍵かけてんだ?」
「だから昼も言ったけど、誰か来たら落ち着かないでしょ。―それにさ、二人の時は『総司』って呼んでっていつも言ってるじゃないですか」
「二人っていっても、ここはまだ校内だぞ」
「お固いなぁ、土方さんは」
やれやれという風に、沖田が片眉を上げる。
それに嘆息すると、土方は自分の向かいの席を沖田にすすめ、自分は扉から見て奥の席に腰かけた。
「で、沖田。進路の何を相談したいんだ?」
一応進学先の資料を持って来たんだが、と土方は机上のパンレットに手を伸ばした。
沖田はそれに目もくれず、土方をじっと見つめて笑いながら答えた。
「んー。二人の将来設計ていうの? それを相談したいと思ったんですよね」
土方の眉が不機嫌そうに寄せられた。
「……てめぇ、ふざけるんだったら俺は仕事に戻るぞ。暇じゃねぇんだよ、こっちは」
「教師がそういうこと言っていいんですか? それにさ……」
沖田がゆっくりと椅子から立ち上がり、土方のほうに向かってくる。土方は警戒したように沖田から目を離さない。
「何だ、沖田……」
「さっきから『総司』って呼んでって言ってるのに、聞こえないのかな。―無視する悪い土方さんには、お仕置きしなくちゃね」
「お、おい……」
沖田は土方の前に立つと、うっすらと微笑んだまま秀麗といわれるその顔を見下ろした。
「ねぇ、土方さんもお仕置きを期待して、何度も『沖田』って呼んでるんでしょ」
「んなわけあるか……、」
沖田の指が土方の後頭部の髪を掴み、強引に上向かせると唇を合わせてきた。
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