サンプル

□執愛サンプル
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見上げた月がまるで血の色のように赤い。

三成は筆を取っていた手を止めて、空を見つめた。

空に浮かぶ月は見事な満月である。常ならば黄金色であるはずの月が、このように見えたことなど初めてだ。

血の色を帯びた月は漠然とした不安を煽る。
胸をざわめかせるこの感覚は何だろう。
三成はしばし時間を忘れ、月に魅入った。

「殿、左近です。失礼してもよろしいでしょうか」

耳触りの良い低い声が響く。

決められた刻限にやって来る聞き慣れたその声に、三成は口角を歪めた。

その声を聞いて、月に傾けていた心は、一瞬にして四散した。月のことなど忘れて、三成の心は色めき立つ。

今日はどのように嬲ってやろうか。そう考えただけで、ぞくりとした感覚が身体を走る。愉悦にも似た衝動が駆け巡っていった。

己には過ぎたる者と謳われ、秀吉にもその才能を請われた男。戦場では鬼左近とも称されている。

そんな男の本性を自分だけが知っている。そう思うだけで胸の中で昏い炎が灯る。

あの男の本質は何とおぞましいのだろう。

その証拠にあの男は男根に爪を食い込まされて、血を滴らせて感じていた。世間に名高い軍師島左近が主に虐げられて悦ぶなどと知ったら、皆はどう思うだろうか。

観衆の前で暴き出してやりたい。澱んだ欲望が三成の身の内で燻っていた。



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