拍手夢れびゅう
□…嘘つかないで下さい。
1ページ/1ページ
「……ねぇ」
『……』
「ね!」
『……、』
はぁ、
「…………」
―……
ドアの鍵をかけない貴女が悪い。
竜崎はひとりため息をついた。
―――事故よ。
松田さんがあたしを探しに来たら、
たまたまあたしが着替えていて。
口に手を添えあたしは言う、
「要は、考えようです」
「水着だと想えば大丈夫です、」
下着姿なんて、
と
竜崎のモノマネをしてみる。
三白眼パンダと目が合って。
一瞬にらまれた、
ような気がする。
パンダくんはクッションを顔にうずめ、
ソファの上でうずくまったまま。
よほど、がんとして動きたくないのか。
長すぎるジーンズの裾からのぞく足の指先を鷲のように曲げ、
しっか、とソファの角を掴んでいる。
松田さんも松田さんだ。
さっきから目を合わせてくれないパンダをなだめるあたしを見つけるなり。
『っわ、、ご、』
けたたましい音を立て、扉を閉めて去る。
そのたびに竜崎は不機嫌マックスになる。
勘弁して下さい松田さん。
ため息をつく彼女を見て思う。
――彼女の着替えを覗いてしまった罪で、
松田の追放を余儀なくしましょうか。
ふつふつと怒りがこみ上げる。
ただ、大人げなくてカッコ悪いとは思っている。
わかっているが。
私だって見たこと無いのに。
貴女の半裸を先に松田が見るとは何事ですか。
『―…………』
ふい、とネコみたく柔らかに顔を逸らされる。
これは長期戦になりそうだ。
一旦離れ、
再び戻ってもなお。
「……あの」
『………』
「…」
『、……』
これは。
「………無視……、というやつですか竜崎さん」
「…………」
『……』
何をそんなに。
「松田さん…」
『…』
ぴくり、と竜崎の髪がうごく。
「…………」
おもしろい。
「まつだ…」
『……………、』
ぴくぴく。
「……」
「たかが下着じゃない、」
裸見られたわけじゃないんだから、
「暗くてよく見えなかったと思うよ、」
『……』
「はい、」
手元にあったポッキーの袋を開け、一本竜崎の前にさしだす。
『………』
ぱく。
…食べた。
「もひとつ食べる?」
ぱく。
かりかり。
………。
「全部あげ『違うのがほしいです』
「……るよ、って、
え?」
『貴女がいいですくれなきゃ口をききません絶対です』
すでに口きいてんじゃねえか。
とつっこませるのはどこのパンダくんでしょう?、
「………なにがほしいのよ」
『言わせますか』
「…言わせねぇよ?」
『それは昨日観た芸人です』
「いーから、
何をどーしたら、
あたしの彼氏のご機嫌は直るわけ」
『ちゅーしてください』
「はぁ、」
『そして私にも着替えを見せて下さい』
「変態好色パンダ」
『私は貴女の彼氏、なんでしょう』
「……」
ちゅ
『……ほっぺ』
「……文句あんの」
『ありますね大ありです』
『さあ早く脱いで下さい』
「あんたって人はほんとに言葉を選べ!」
『どういうことでしょう』
「………だから、
誘うならもっとうまくしなさいよ」
『誘われたいんですか』
「いーから、」
『下着の色は何色ですか見せて下さい』
「あんたね、…台詞だけきいてるとほんと変態よ」
『台詞だけじゃないとどうですか』
「は」
『実際に手を添えて、』
「う」
じりじりと壁に追いつめられる。
『さあ、先ほど松田に見せたあられもない姿を私に見せてください』
さあさあ。
「……」
『ああ、イヤですかそうですか』
ふい、
「……」
がし。
『……』
竜崎の腕を掴む。
「一回しか見せない」
『…』
「……」
『いいです無理しなくて』
「なによ怖じ気付いたの、」
今度はあたしが壁に追いつめてやる。
『…違います』
両手をポケットに入れてふい、と顔を逸らされる。
「なーんだ、パンダっていくじなしだったのね!」
生態をよく存じ上げなかったわ、
と言って壁ぎわに追いやる。
『貴女の下着姿なんて興味ないです結構です』
「なによそれ」
『言わせますか』
「言わせねぇよ?」
『…それ、気に入ったみたいですね』
「話そらさない。」
竜崎のおでこに指をおく。
「パンダくん、あたしのこと好き?」
『まぁそれなりに』
「ちゅーしたい?」
『それなりに』
「やらしーこと考えたりする?」
『……、それなりに』
「ふぅん、」
竜崎もオスだね、
『…オスってなんですかなんか失礼です』
「でもあたしの裸見るのは怖じ気付くんでしょ?」
『貴女って人ははしたないです』
「はしたなくなんかないよ。
好き合ってんならそーゆーことしてトーゼンでしょ?」
『どーゆーことするんですか』
「言わせねぇよ?」
『もういいですから、
しかもなんか用法が違います』
「あたしの着替え、下着姿、見たいんなら」
「ちゃんとスキってゆって」
『…、』
「竜崎ずるい。
確信つけさせないままヤキモチだけやいてさ。」
『…』
「あたしのこと、スキ?」
『…………それなりにスキですよ』
「あっそう、じゃー松田さんと浮気しよっかな」
『…うわき。』
「そ!」
がし。
腕を掴まれる。
『…1回しか言いません、』
「…」
『貴女が好き』
「……………」
『………なような気がします』
「なによそれ」
『だってちゅーしてくれませんし、』
「ばかパンダ!だいっきらい」
『貴女そんなこと叫ぶと動物愛護団体に叱られますよ』
「いーの、だって」
竜崎はあたしのだもん、
『…早く言いなさい。
だって、何ですか』
「言わない!パンダ語は知らない!」
ちゅ
『こういうこと、したかったんですか?』
「……………………」
「ちがうもん」
「もっとすごいことだもん」
(ワタリ、)
(はい)
(成人女性が成人男性に求めることってなんでしょう)
(…これを渡されたのですか?)
(これがないとダメだそうです
何ですかこれ)
(……)
(体力を使うそうです、
困りました。私自信ありません。
彼女の体力は尋常じゃありません)
(彼女のリクエストで行くのですか。これを使って)
(そうです仕方なくです。
そこは皆、女性はビキニで歩かなければいけないらしいです)
(……)
(もれなく彼女の水着姿が見れるということになりますが、
まぁさして興味はないんですよ)
(………)
(そしてカップルは必ず腕を組んで歩かなければいけないらしいです。
水着だと直に胸が当たりますね。
迷惑ですよね、
まぁさしてこちらも興味はないんですけど)
(ええと、竜崎)
(何ですか)
(その情報はどこから、)
(彼女からです。
男からしたら夢の国だから連れて行けとせがまれました。
久々に二人きりでそんなところへ行かされる私の身になって下さい、
まぁさして楽しみではないんですがね)
(……………)
後日。夢の国。
ディズニーランドで連れ回され、
可愛い耳をつけられ。
げんなりした竜崎なのでした。
_