拍手夢れびゅう

…言わせないで下さい。
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『ねぇ、最近じゃすっかり晩婚で』


『そうなんですよ、
ですから、うちの娘も困ってましてね、』




ほほほ………














(じゃねぇよバカヤロウ。)



………ってのは言わず。
一呼吸おいて話し出す。










「私も素敵な方がいらっしゃれば早く家庭に入りたいと、」

そうは想っているんですが、

「なかなか御縁がなくて…」


THE・愛想笑い
(パーフェクトバージョン)
を装って言う。




『あらー、あなたなんて、器量よしだし、
彼氏いるんじゃないのぉ、』

『そうよお』





ほら、きた。




やっぱりねぇ、
女の子は仕事も大切だけど、


いいと想うのよ、


この方なんだけど、





(………きた。)

開かれた写真をやんわり閉じる。




「私、お見合いってピンとこなくて………」

えへへ、



今度はTHE・お嬢様
(内気バージョン)で攻めてみる。




いや、でもね、
若いのなんて今だけ、

早く決めないと、
ほら、
子供とか














いえ、でも
おばさま、




いーや、
あんたね、



と。


お互いの主張を
やわらかくぶつけあう親戚との会合。


繰り返される問答に疲弊した。


















「あーーーーーっ!!」
もーーー!



「もっ、二っ度と行かないわよあんなトコ!」




憤慨しながら竜崎のクッキーをかっさらってバリバリ食べる。




『そんな美しい格好と台詞がまったくかみ合っていませんが』

「この和服はね、
伯母にむりやり着させられたのよ!」

『……で、そんなに目を血走らせて私のクッキーを横取りするほど、』

なにを怒ってらっしゃるんですか




「…私の、ってとこ強調するあたりがむかつく」

『小さなとこはいいです、さー何があったんですか。』


「………あたし、まだ仕事してたいのよ」

けど、


ケッコンケッコンってみーんな急かしてさ。



「なんなのよ、未婚の何がいけないのよ」


子供だって産む気はないし、


ていうか

「あたしは独りでも食べてくことができるように資格職選んだわけ、」


それなのに、

「そーゆー覚悟をないがしろにして、
捨てて家庭に入れー、
だなんて、」



納得できるわけないでしょ!!
「誰もわかってくれないし」



『……まあ、たしかに言うこともわかりますが、』

やっぱり心配なんじゃないんですか、身内としては



「いやよ、
あたし、家でご飯作って待つのなんか、」

それより働きたい、
年くうほど、価値が出る仕事こそ続けるべきよ、

「そーゆーこと、
なんでわっかんないかなぁ、」

だからお嬢育ちはキライなのよ





クッキーはあっというまに怒りの生け贄となり消え失せた。





『…ときに貴女、おつきあいしてる方は』

「なによ、竜崎までおばさんたちの味方なわけ!」

『……、怖いです怒鳴らないで下さい、』


「……いないわよ彼氏なんて」



仕事不規則だし、
呼び出されたり。


「あっちがネを上げて離れてくのがオチよ」

だから、
あたしは仕事で会えない、
くらいのひとじゃないとだめ、

「お互いになにか、守りたいものがないと、」






あ。







「いーこと思いついた!」

竜崎!

『なんですか、』
忙しいひとですね、



「彼氏役に松田さん貸してよ!」

そしたら、
少しは静かになってくれるかも!


「ねー名案でしょ、ねー」

ぶんぶん、と竜崎の両肩を掴んで振る。


「松田さんなら、お仕事ちゃんと頑張ってるし、」

『…………、出来ないから必死なだけです、

………私の方が優秀です』


「なんなら、
あたし松田さんと付き合ってもいいかも!

松田さんやさしーし!」

『………聞いてないですね……、
私も割と紳士で優しいほうです』


「そーしよう!
ねー竜崎、松田さんをあたしに紹介してよ〜!」


『………、だめです』


「えっなんで!?いじわる!」
松田さんなら一般人だし問題ないでしょ?

『…………どういう意味でしょうか、』


「この前、
竜崎にお願いしたらダメだったじゃない?」

世界のL、だしー?




















「……………」


『………』

「………ね、」


『……』


「…りゅ、」





ふい、と顔をそらされる。

『………』




「……ごめんね、」

『……』

「……、竜崎が、人じゃないって意味じゃないの、」


『……わかってます』








怒ってる。
「……ごめん、て」






だって。
竜崎は世界の大事なひとじゃない。


そういう意味で一般人じゃないって、

……そういう、意味なのに




「……ごめんなさい、」冗談混じりな話で、
あなたを傷つけた、









『………』
『……すみません』







『……、タイミングです、』


「え?」




『さっき、』


「…さっき?」




『私も、
所詮、普通の人間と思った矢先だったので』




だからちょっとへこんだんです、








『私でも、
普通にヤキモチをやくんだなあ、』











「……え?」






『あなたが、』

松田さんに彼氏役を頼みたいと申し出たとき、



そして。

『それが私ではダメだと言われたとき、』





『正直、なんだか、』

このへんが。


胸のあたりをさす彼。



『……
よくわかりませんが、』







「………」



『私の仕事に人格は必要ありません』


『けれど、』



『それをあらためてあなたに言われると、』






隠しきれないものですね、












『あなたが好きです、』








「……、す…、」


って。



……、え?













『……付き合ってあげてもいいですよ、?』






戦々恐々とした女の園へ。












「……、おばさんたち、から、
根ほり葉ほり、
素性を聴かれると、」
『私、プロフィールには自信あります』

「思……う。し、







あと、

「口うるさいのばっかだよ、」
『私も割と弁の立つほうです』
あと。



「松本のおばちゃんや、小椋さんちのお嫁さん…… 」

指折りながら喋る




あと、

あと。


「田村のおじちゃんの妹とか」


あと、


「矢部さんちのとなりの奥さんとか、」


あと、


『ふ、』


「な、なんで笑うのっ…」



『いえ、
なかなか手強そうだなと思って』

くつくつ、と竜崎が笑う。


「そ、そーよ、
手強いんだから、」

誰を連れてっても、
「なかなか皆認めないのよ、」

あたしの彼氏は狭き門なの、



『……それだけ、』

あなたは周りに愛されてるんです


『いい加減認めて、
幸せにならないと』


















「……、ていうか……」


『はい』


「ていうか!」

『なんですか』
元気なのはいいですが、私、
にぎやかなのは苦手です




「ていうか…」




「りゅ、ざき」




あたしのこと好きって言った……、…?
















(聞いてなかったんですか)


(いや、か、
や、てか、)












もう一度お願いします、









「……最近、
男の人に、
言われたことないんだもん…」



可愛いとか

好きとか

一緒にいたいとか





『泣かないで下さいよそのくらいで』

ていうか私
そんなことまで言ってませんし






「だ、て」


うれしい―………




『…………
あなたの敵を倒せるかはわかりませんが、』







私を紹介してみますか、










(……もう一回言って)














(あなたが、好きです)



(………マジ?)


(マジです、)



(……マジ?)




(……、正確にいうと、
違うかもしれませんね)





(……やっぱりあたしなんてダメなんだ、)

しょせん独りが似合う寂しい年頃なんだ……!







(……ああ、だから泣かないで)





(もういいよ……)






(……………
どっちかっていうと、)












愛してますよ、




































「…どゆこと?」





『…そういうことです』









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