拍手夢れびゅう

…離れないで下さい。
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竜崎が、はずみで怪我をした。





正確には、させてしまった。





私が自分の背が足りないくせに、




無理して、
ほぼ天井の近くにある棚から、
資料箱を取ろうとしたから。







ぐらり、とバランスを崩したそれらは。



あ、





と思ったときには遅かった。




山積する資料の山が落ち掛けて、
目をつむってからは早かった。






『大丈夫ですか、』

「……、あ、
へ、ー…き」

『…、夜勤明けで疲れてらっしゃるんでしょう、

早く自宅で休んで下さいね、』








はい、





と叱られた子供のようにぼうぜんとする。





あたりを片しながら、



ああ、
役に立てるチャンスだと思ったのになぁ、






一般人の私にはこんなことくらいしか、
と思ったけれど。






私って、だめだなあ。


竜崎の、



そばに居るってむずかしいなぁ、














踏み台がないと届かないことはわかってた。


(夜勤明けには無謀なことをしがちだけど

そのくらいの理性や知性はあったのよ、)




けど、

けど。






踏み台なんて用意しようものなら、

きちんと優しいあなたは、すべてを察してしまうじゃない。






何も言わなくても、私が踏み台を置く前に。


仕事の手を止めて近づいて、
ふ、と何なく取ってくれるだろう。









なにげなく黙ったまま、いつでも私を完璧に助けてしまうんだ、


竜崎という人は。




それを容易に想像できるあたり、

いかに自分が守られているかがわかって。



なにか役に立ちたくて。



でも、
結果役立たず。








そんなことはいい。





おそらく、
私をかばったときに
指を痛めたはず













「手、」

『…ああ、』




「いや、
‘ああ、’
じゃなくて、左手、」



『…別に平気ですこれくらい』






ぷらぷら、
と左手をふってみせる。









この人は冷静で完璧で




私情なんて挟まない




そんな徹底ぶりは、
どうやら自らへの意識は見事に欠けているようで





「そんなやってたら、
きれいに治らなくなりますよ、」

痛みませんか、?





『……痛かったら何かしてくれるんですか』

「そりゃ、一応、仕事柄なにか『ああ、ああ。すごく痛いです、痛んできました。
私、手がこの上なく切ないです
こんなの初めてです何とかして下さい。』


…………あんたね、」







しらじらしーにも程があるっての、




「ん、

ほら、貸して」








『………これは見事です』

処置を終えた指を360℃見回す彼。





「……、突き指は、
指の捻挫みたいなもんだから、
ひどいのはちゃんと固定しないと指が曲がるのよ、」




私なんて、
人差し指、変形して
グー握ったとき第一関節が曲がんないんですから、





「ちゃんと冷やして、
なるべく安静に。


……って出来ないと思うけどさ、」






『そうですねキーが叩けませんね』


「…ごめんね」

『いえ……』


「…そーやって、竜崎は優しいから」



それに全部甘えたいんだけど


「なんか、したいんだよねぇ、」


ごめんね、



「なにも、」


出来なかったよ、












ああだめだ、
めんどくさい、






涙がでてきたよ、






また、

困らせてしまうじゃないか




『……、あなたが私に優しくあろうとするから、』



それであなたが傷ついてしまうなら、


『もうそんなことしなくていいんですよ、』


私、
けっこう出来る男です










私の前髪をすいて、額を合わせる竜崎。



「熱でもでましたか」




ふるふる、と泣きながら首を横に振る。






『泣かないで下さいよ、』

甘やかしたくなっちゃうじゃないですか、


と頭を撫でられる。



「私、じゃまばっかり…」

『……』

「竜崎の役に立ちたい、」





何よりの願いなのに、

ただ出来なくて泣いてるなんて。


子供だって
もう少しまともなことができるというのに









『…………、指、』


「…、っく、痛い?」

ごめんね、

ごめんね…


『……逆です』


ああ、

やわらかく笑うこの人は、






私が子供だってことわかってる、







背伸びして追いつきたくて、

でも出来なくて責める、



がたがたの大人だってこともお見通しだ、





『指、痛くなくなりましたよ、』



あなたが処置してくれたおかげです、


ぽむ、

と頭を撫でられる。







『ほら、』









あなたが居てくれてよかったでしょう、












『私、
あなたが居ないとだめですねぇ、』













ほら、
そんなこと言って



いつでも私を完璧に助けてしまうんだ、


竜崎という人は。

















(無造作に下げた鞄に種が詰まっていて、)


(手品のよう、ひねた僕を笑わせるよ)


















『さ、
看護師さん』


私、手が不自由なのであなたを抱きしめられません



なんとかしてください








そう言って、
両の手をがばりと広げてくれたこの人に







ああ、


神様、私、



してあげたいことが山ほどあるの










ぐ、


と抱きしめる。



そばで、
ゆるりと竜崎の腕が巻き付く。














(……あの)


(え……?)

(そんなにくっつかれると、)


男としてはつらいものが、

(……胸、やわらかすぎです)




(………!!)



(あ、)







(看護師さん、包帯が)














(…ご自分で何とかなさってください、)



(………残念です、)











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Mr.Children『口笛』





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